AIは査読をどう変えるのか? 効率化の先にある「人間の責任」と査読の本質

AIは査読をどう変えるのか? 効率化の先にある「人間の責任」と査読の本質

学術出版における査読プロセスでは、論文のスクリーニングや英文校正、査読者選定などでAIの活用が進んでいます。査読者の負担軽減やプロセスの効率化が期待される一方で、研究価値の正確な評価や出版決定における「人間の役割と責任」が改めて問われています。

本記事では、ALPSPが発行する『Learned Publishing』誌の編集長であるLaura Dormer氏に、AIが得意とする技術的支援と人間にしかできない判断の違い、そして10年後の査読を見据えた信頼性と責任のあり方について詳しくお聞きしました。

Laura Dormer氏

Editor-in-Chief – Learned Publishing
The Association of Learned & Professional Society Publishers (ALPSP)

Laura Dormer

Q1. AIは、投稿論文のスクリーニングや英文のチェック、査読者候補の選定など、査読プロセスでも活用されるようになっています。今後AIがさらに進化しても、「ここは人が判断すべき」と思うのは、どのような部分でしょうか?

Laura )AIは学術出版のワークフローにおいて間違いなく大きな可能性を秘めており、査読が抱えるプレッシャーを考えると、編集者や査読者の負担を軽減するためにAIをどのように活用できるかを検討することは理にかなっています。しかし、(著者のAI活用に関する私の見解と同様に)責任という要素そのものは、常にそのプロセスに関わる人間が負い続けなければならないと感じています。現在、AIを責任を持って活用するために「人間が主導権を握る」という動きが見られますが、査読の場合、これは極めて重要だと考えます。つまり、人間が方向性を定め、判断を下すべきなのです。編集者は論文に関する決定について責任を負い続けなければならず、査読者は提供したフィードバックに対して説明責任を果たさなければなりません。AIが査読の技術的な側面を支援できることは間違いありませんが、その分野における幅広い経験に基づいて、微妙なニュアンスを含む批評を行うことができるのは人間だけなのです。


Q2. 質の高い査読では、研究内容が正しいかどうかだけでなく、研究の新規性、重要性、およびその分野に与える潜在的な影響を評価することが求められます。こうした研究の価値を判断するうえで、AIはどこまで役立つと思いますか? また、人にしかできない判断はあると思いますか?

Laura )テクノロジーの専門家ではない私にとって、AIの将来を予測するのは難しいことです。なぜなら、AIは登場当初からすでに驚くほど急速に進化しているからです。しかし現時点では、AIの強みは査読の技術的な側面(例えば、参考文献の問題点の特定や統計的な裏付けの提供など)や、過去を振り返って投稿論文を先行研究と比較することにあるように感じます。一方、将来を見据えたり、ある研究がもたらす潜在的な影響を評価したりする点においては、AIの有用性は低いと私は考えています。こうした点においてこそ、人間の編集者や査読者の経験が非常に貴重となるのです。


Q3. AIによって査読のばらつきやバイアスを減らせる可能性がある一方で、新たなバイアスが生じたり、判断の責任が曖昧になることも懸念されています。査読プロセスへの信頼を保つためには、AIと人がどのように役割を分担するのが望ましいとお考えですか?

Laura )AIがなくても、査読が完璧なプロセスではないことは周知の事実です。表面的には、AIは人間のように個人的なバイアスの影響を受けにくいはずであるため、AIによって査読の一貫性が高まる可能性は確かにあります。しかし、AIツールは、システムにすでに存在するバイアスを永続させてしまう可能性も秘めています(例えば、本質的なバイアスを含む過去のデータを用いて学習された場合など)。繰り返しになりますが、そのような事態を回避するためには、人間の判断が必要となるでしょう。また、学術記録に対する信頼の重要な要素のひとつは、査読が絶対的な保証ではないことを認識し、出版後であっても、修正や、最も極端な場合には撤回といった形で、常にその著作を再検討する機会が設けられ、それがすべて透明性のある方法で行われる必要があるという点にあると考えています。査読へのAIの関与の有無にかかわらず、出版後に特定された誤りを是正するために、システムは引き続き機能し続けなければなりません。


Q4. これまでに受けた(あるいは提供した)査読のフィードバックの中で、最も価値のあるものは何でしたか? AIがそのような貢献を現実的に再現できると思いますか?

Laura )編集者としての私の経験から言えば、査読報告書の質には大きなばらつきがあることが特に印象的です。非常に詳細な査読もあれば、簡潔なものもあります(場合によっては、著者に公平な査読を提供するために代替の査読者を確保しなければならないほど、ざっくりとしたものもあります)。ですから、AIシステムが最高レベルで最も経験豊富な査読者の貢献を再現できるとは思いませんが、全体として受け取る査読の質の一貫性を高める一助となることを期待しています。


Q5. 10年後、AIがさらに普及したとき、査読はどのようになっていてほしいですか? AIに任せたいことと、査読者や編集者が引き続き担うべきことを、それぞれ教えてください。

Laura )私はAIに対してかなり前向きな立場をとっており、理想としては、10年後の査読においてAIが支援的な役割を果たすことを望んでいます。具体的には、原稿の選別を効率化して、不適切な論文が過負荷状態の査読システムに流入するのを防いだり、適切な査読者の特定や割り当てを支援したり、査読者や編集者が原稿の評価を完了できるよう支援したりすることです。また、AIが、例えば母国語が英語ではない人々などに対して、このプロセスのアクセシビリティを拡大するために活用されることも期待しています。これは信頼できる環境(単にChatGPTに論文をアップロードするだけではいけません!)で行われることが重要であり、理想的には出版社が提供し、既存のシステムに組み込まれた環境であるべきです。そうすることで、査読者にとってプロセスを可能な限り簡素化し、私たちに論文を託してくれた著者の機密性を維持することができるからです。


Q6. AIを活用した査読が一般的になっても、査読者が失ってはいけないものを一つ挙げるとしたら、何でしょうか? その理由も教えてください。

Laura )査読の目的は、原稿が可能な限り最良の状態で読者の元へ届くようにすることです。AIがプロセスの効率化、障壁の除去、支援の提供といった面でこれを支援できるのであれば、そのように活用すべきです。しかし、そのプロセスに対する責任は、私の考えでは、常に最終的には関与する編集者や査読者に帰属すべきです


まとめ

AIは、参考文献や統計の検証といった技術的なチェック、不適切な論文の流入防止、母国語が英語ではない著者へのアクセシビリティ向上などを通じて、査読の効率や一貫性を高める強力な支援役となります。しかし、研究の潜在的な影響力を評価することや、文脈を踏まえた微妙なニュアンスを含む批評を行えるのは現時点では人間だけにほかなりません。査読の本質的な目的は「原稿を可能な限り最高の状態で読者に届けること」であり、最終的な判断の主導権と説明責任は常に編集者や査読者が負う必要があります。出版社が提供する信頼できる透明性のある環境のもとで、AIを適切なサポートツールとして位置付けることが、今後の学術出版への信頼を維持する鍵となります。

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この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
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