エディテージ・グラント2025にてアカデミスト賞を受賞した榎 優志さんに、入賞した喜びやご自身の研究について、グラントに応募して感じたことなどを語っていただきました。
榎 優志さんプロフィール
Masashi Enoki
京都橘大学 工学部建築デザイン学科 助教。1998年広島県出身。2020年広島大学 工学部卒業。2026年広島大学 大学院先進理工系科学研究科博士課程後期修了。専門は建築生産・建築構法。修士論文では、工務店・地域ビルダーにおける木造住宅の標準仕様について、博士論文では、職業能力開発校における木造大工技能者の育成システムについて研究。博士論文に取り組む傍ら、研究の過程で生まれた自身の課題意識をもとに、家づくりの未来を考える若人の集い、リノベイティブ大工育成学校プロジェクトという2つのプロジェクトを立ち上げる。2026年より現職。博士(工学)。
趣味は音楽、野球観戦、お笑い、建築巡りなど。中学からトロンボーンをはじめ、吹奏楽・クラシックに約10年間どっぷりはまっていたが、大学院生の頃からバンド音楽の世界に惹かれはじめ、最近ではライブハウスに足を運ぶようになった。最近の目標は行きつけの居酒屋とメキシカンの店を見つけること。

受賞した研究内容について
今日の建築業界では、職人不足が大きな課題となっています。しかしながら、人材をどのように育てるべきか、またそれを、現状の社会でどのように実現できるのかについての学術的な知見は不足しているのが現状です。私は、建築市場において大きな割合を占める木造住宅生産を対象に、家づくりの根幹を支える大工技能者を、どのように持続的に育てることができるのか、という問いに向き合ってきました。今回はその中でも、わが国の代表的な大工育成機関の一つである職業能力開発校(いわゆる職業訓練校)における育成の仕組みを、構造的・体系的に明らかにした成果を発表しました。また、研究と合わせて取り組んできた、全国ネットの若手職人オンラインコミュニティや、過疎集落における空き家を活用した新たな大工育成のあり方を探るプロジェクトなども紹介しました。
エディテージ・グラント2025アカデミスト賞を受賞して
この度は次点およびアカデミスト賞をいただき、ありがとうございました。これまでの研究や活動について、多くの方に知っていただき、さらに評価していただくことができ、大変嬉しく思っています。
ご自身の研究について
建築は、構造、材料、設備、計画、設計といった多くの理論・技術の下に成立しているものですが、それが実体として現れるためには、理論・技術と社会のすり合わせが不可欠です。実際の社会において、“どのような”建築を、“どのように”つくるべきかについて、建築に関わるモノ・ヒト・コト・カネといった様々な視点から考えています。中でも最近は、建築をつくる現場を支える職人について、これからの職能、育成、働き方などの観点から研究しています。
修士研究に取り組んでいた頃、とある工務店の社長に言われた一言をきっかけに、日本の木造建築が築いてきた歴史や文化に興味を持つようになりました。ちょうどその頃、「20代以下の大工の数がもう少しで2万人を切る」というニュースが飛び込んできました。このニュースの問題は、単に人数が減っていることではなく、今後の住宅需要を賄えないほどのスピードで大工が急減している、ということです。私は、このままでは日本の木造建築の技術・文化がなくなってしまうという危機感を感じ、そこから自分事として、大工・職人問題の研究に熱中するようになりました。
今後は、人間が人間として豊かに生きていける社会を実現するための研究を、建築を通して取り組んでいきたいと考えます。いまの社会の中で、建築に関わる人それぞれが幸せになるための、建築と社会の関わり方について探求したいです。
エディテージ・グラントに応募した理由
エディテージ・グラントは、研究室に届いた雑誌か何かに入っていたチラシを見て知ったように思います。エディテージの存在はもちろん知っていましたが、このグラントのことはその時初めて知りました。博士課程に入り、いくつか助成金に応募していたのですが、なかなか思うような結果が出ないことが続いた時期がありました。周りの先生方とも話しているうち、これはとにかく数を打っていくべきだという考えになっていた時期に、このグラントの存在を知りました。あまり深いことは考えず、目に留めてもらえたらラッキー、くらいの感覚で、まずは出してみようと思い応募しました。
グラントへの応募にあたり、苦労したことや工夫したこと
表現方法は自由ということで、いかに審査員の目を引けるかを重視したいと考えました。共感してもらえるような文章の書きぶり、明確な章構成、エッセイ全体の体裁なども工夫しました。
エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと
エディテージ・グラントは他のグラントと比べて、用途の自由度が高いことも特徴ですが、なによりエッセイという表現方法が大きな違いだと感じました。特にフォーマットも指定されておらず、従来の助成金では見たことのない応募方法で、はじめは少し戸惑いもありました。しかし、単なる業績だけでなく、応募者の人間性や熱意を評価するグラントとしては、それぞれの個性を発揮しやすい面白い方式だと感じました。
成果が簡単には出せず埋もれがちな研究に光を当てるという、本グラントのコンセプトは非常に重要に感じます。またその中で私の研究・活動を評価していただけて、大変ありがたく思っています。特にセレモニーでは、普段はなかなか関わることのない分野の方々と新たなつながりを築くことができ、貴重な機会となりました。これからの希望とすれば、文学、社会学、経済学、芸術学など、より幅広い分野の研究者が一堂に会するイベントになるとよいなと思います。
普段、若手研究者として感じていること
あえて若手の立場としての所感を述べるとすれば、次の二つが浮かびました。
一つは、「人手不足」です。私の分野では、おそらく他の分野以上に、博士課程に進む学生が少なく、その中でも研究職に就く方は非常に限られています。大工不足を研究する人手も不足しているということです。今後自分たちが本格的に牽引していくとなったとき、同世代がどの程度残っているのか、一抹の不安を感じています。
もう一つは、「若手の感覚を大切にしたい」ということです。社会の変化のスピードが日ごとに速まっている今日、建築に求められるものや、あるべき建築の姿もどんどんと変化しています。私の分野では、現在よりも一歩先の未来を見つめて、建築のありようを考えることが多いです。そこでは時として、若手世代の感覚が的を射ている、ということも起こりうると思います。若手である“いま”自分がどのようなことを感じているのか、また将来的には、自分よりも若い世代が“その時”何を感じているのか。筋がはっきりせず、ロジックも曖昧だとしても、時代の潮流や業界の定石にとらわれず、その感覚にアンテナを張って、大切にしたいと考えています。
