「快適なオフィスを目指して」大木知佳子様(株式会社大林組技術本部技術ソリューション部/生命科学分野・工学分野)

株式会社大林組 技術本部 技術ソリューション部の大木 知佳子様にお話をお伺いしました。建物の省エネと快適性を両立した光・熱環境を同時に解析・検討することができるプログラムの開発に取り組まれています。エディテージの英文翻訳サービス・プレミアム学術翻訳をご利用いただきました。

※聞き手 岡本麻子(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)インタビュー実施日: 2019年11月6日
(以下、本文敬称略/肩書、ご所属等はインタビュー当時のものです)
目次

省エネや快適性を説明するためのシュミレーションプログラムを開発して、実際の物件の役に立ちたい

――― これまでに大木様からご依頼いただいたご案件を振り返ってみました。プレミアム英文校正とプレミアム翻訳をそれぞれ2回ご依頼いただきまして、ご専門分野は光環境。フルペーパーボリュームでお預かりしました。

(大木) 1回目は、ワークショップの発表でした。私は、Radianceというアメリカで開発された光環境シミュレーションプログラム(解析ソフト)を使って、業務の中でシミュレーションをしています。そのRadianceの活用事例を世界のユーザーが発表するワークショップが毎年あるんですね。そこで発表することになり、パワーポイントと発表原稿の翻訳をお願いしました。発表内容40分間くらいのボリュームでした。

――― ご研究について素人なりに調べてみたのですが、従来の明るさに対する快適性や、感覚といった部分を損なわないかたちでの、省エネルギーの光の研究や開発という風に承ったのですが。

(大木) 省エネと快適性を両立した光環境という研究の他、最近は、建物のルーバーや庇の計画は、これまで建物をデザインする建築設計者と、光や熱環境を計画する設備設計者がそれぞれ別々に検討していましたが、その形と性能の検討を同時に行う研究開発に取り組んでいます。現在は、熱と光を同時に解析できるようなプログラムの開発をしていまして、その熱と光の総合シミュレーションプログラムが、2度目にご依頼させていただいた内容です。CIEという4年に1度開催される国際的な照明の委員会で発表させていただく論文の翻訳をお願いしました。

――― そうでしたか。そうなりますと、光や熱の有効活用や、環境負荷をできるだけかけずに快適な室内環境を得ることができるかを、設計の段階でシミュレーションできるということでしょうか。

(大木) 熱だけ、光だけではなく、両方を考えた最適な答えを見つけようというシミュレーションを行っています。

――― 最近できるビルってエコロジーに配慮してるとかありますけども。

(大木) 外壁にグリーンを採用したりとかありますね。実際はデザインが重視されることも多いんですけど。ZEB(Net Zero Energy Building)など、建物で消費するエネルギーをゼロにしましょう、そして消費する分は自分たちで太陽光発電などで発電して賄いましょうという取り組みもあります。またアメリカのWELL認証という健康と快適性の認証制度もあります。そういった省エネや快適性というものを説明するためには、何らかシミュレーションが必要で数字を出さないといけない。そういったときに活用できるようなシミュレーションプログラムを開発して、実際の物件の役に立ちたいというという思いで取り組んでいます。

実は私、今、学生もやっているんです。

――― ご研究に至る道のりはどのようなものでしたか。

(大木) 建築学科を卒業後、当社に入社し、入社3年目のときに光環境の支援業務をする部署に異動になったんです。そこで得た経験から、10年ほど前からまた業務としてこの光環境のことを担当することになりました。実は私、今、学生もやっているんです。

――― それはお忙しい!そちらでは何を。

(大木) 3年ぐらい前から共同研究をさせていただいていた大学で、去年から社会人ドクターを目指して博士課程に通っています。自然と論文とかたくさん出さなきゃいけなくってしまって。

――― 会社との両立は大変ではないですか。

(大木) 共同研究という枠組みでやっていますが、いろいろ授業の単位とかも取ったりしています。課程は3年間なんですけど今は2年目です。だから今半分くらいきたところでしょうか。特にこの2年ぐらいはよく発表させていただいてます。

――― 道のりとして半分までは来られた。

(大木) 博士課程的にはそうです。すでにいくつかの論文を発表していますが、指導教授には「じゃあ今度は英語のジャーナルに出してみたら」と言われていますので、またお願いすることになるかなと思っています。

――― 分かりました。翻訳でも校正でもどちらでもお待ちしております。

起きてる時間のうちの多くを過ごすオフィスですから、やっぱり快適であってもらいたい

――― もともと建築をご研究されていて、そこから光環境の分野へ入られたのですか。

(大木) 建築学科を卒業して、人工照明の計画や給水、空調、設備などに関係する職種で入社しました。一般的には設備の設計や、現場担当に就く人が多かったんですけれども、私は入社後の異動で、偶然、光環境のことをやっている部署に配属されたんです。

――― そうなんですね。今のご研究からして偶然とは思いませんでした。

(大木) でもこれは楽しいなと、自分でももうちょっとやりたいなと思ったんです。だけど入社後の状況の変化で、その業務がなくなってしまったんです。私自身は産休を取ったりしてる間に全く違う部署に配属になり、業務としてはシミュレーションとは離れていたのですが、頼まれれば時間が空いたときにやろうかぐらいの感じで繋がってきたようなところもあります。そしてその後同じような部署が復活し、この10年はずっと業務としてやっています。

――― 入社のときからずっとこの分野とご縁がつながっていて、今や本格的に。

(大木) そうかもしれません。普通、設計図って紙にペンで二次元上に書くと思われていますが、最近はパソコンを使って三次元で図面を作成するんです。三次元の図面のことをBIM(Building Information Modeling)と言いますが、弊社もBIMについて積極的に取り組んでいます。そうすると建物の形状モデルがありますから、シミュレーションがやりやすくなってきているんです。もちろん、シミュレーションがあれば何でも解決するわけでもないとは思っていますが。

――― 実際にモックアップを作られるときの検証材料としても、シミュレーションが活用されているのでしょうか。

(大木) そうですね。

――― 大林組さんの建造物はオフィスなどが多いので、多くの人が人生の中で長い時間を過ごす場所をご提供されてらっしゃいますよね、その中で光ってとても大事だと思います。中にはどうしても目がチカチカするような場所もありますから。

(大木) 窓のチカチカするまぶしさをグレアと言います。

――― ブラインド制御のご研究内容ですね。

(大木) 今年の照明学会では、遮蔽物があるときの、年間のまぶしさ評価のケーススタディをやってみました。ここにブラインドがあって、外には縦のルーバーがある、そういったときのまぶしさを評価しましょうと。PGSVは主に日本で使われている指標、DGPはヨーロッパで使われている指標ですが、それぞれにいくつ以下が望ましいという閾値があります。それを超える割合、超えない割合っていうものを年間で評価してみた事例なんです。この評価ではブラインドは70度に閉じてないと閾値を超えてしまう割合が多すぎますという答えになってしまって。そういったまぶしさの評価にもこのシミュレーション技術を使って、研究の範囲を広げていきたいと思ってます。ただ、これはなかなか難しくて、ある席の人が、ここがまぶしいと思ってブラインドを閉じた場所でも、ほかのところから見ている人は別にまぶしく感じないとか。なかなかみんなが思い通りになるっていうのは難しいと実感してます。個人差が意外と大きいんです。

――― この大林組本社ビルにも、大木様の研究は生かされているのですか。

(大木) ここは1998年に建てられた建物なので、直接この研究を生かすという点では関わっていません。ですが、年間を通じてこの席の人は昼光をどう感じているのかというような、視環境のアンケートや実測の調査を実施しようとしているところです。弊社以外のいろいろなオフィスで同じような調査をして、光環境の数値的な目標値作りに役立てていきたいと思っています。

――― 実測調査は何カ月ぐらいかけてされる予定なんですか。

(大木) 弊社のオフィスは今月後半の2週間行います。

――― やっぱり建築物というのは規模の違いはあっても必ず日常生活に関わるものですから。そこで快適に過ごすことって大事ですよね。社員の皆様も、居心地についての調査やアンケートなら、喜んで答えていただけそうです。

(大木) 起きてる時間のうちの多くを過ごすオフィスですから、やっぱり快適であってもらいたいと思います。

すごいな、よく読んでいただいたなと。

――― これまでのご利用の中で、印象に残ったことなどはありますか。

(大木) 10ページぐらいの翻訳を、締め切り前の短期間でお願いしました。国際学会に出すもので、専門用語も多くて難しかったと思うんですけど、上手に解釈された英語になっていて、本当に驚きました。

――― そこは弊社が自信を持っている部分で、翻訳者やエディターによる、お客様の意向をしっかり汲み取るスキルだと、手前味噌ですがそう思っています。ここに何が書いてあるかだけではなくて、大木様がこの研究結果を通じて何を伝えたいかというところをきちんと汲み取れていたんだと思います。

(大木) すごいなと思いました。優秀な方だったんですね。

――― メディカル分野の翻訳者やエディターの人数と比べると、この分野を専門とするスタッフの人数は少ないと思いますが、ばっちり合うスタッフが担当させていただけて良かったです。

(大木) しかも、文章を短くする作業もしていただいて。何割かまでだったら作業の中でやりますとおっしゃって、きっちり10ページに収めていただいた。

――― それには一旦全部を解釈して、どこを強調されたいかとか、何を最も伝えたいかを汲み取れないとならないですね。

(大木) 自分でやるとしたら章ごと省くとか。本当に感動しました。それをもとにポスターもつくることができました。

――― よかったです。ありがとうございます。もともと弊社をご利用になられたきっかけは。

(大木) ある学会で利用している翻訳会社がすごく良かったという話を聞いて、名前を教えてもらったらエディテージでした。

――― プレミアムをお選びいただいたのは理由はどういったものですか。

(大木) 説明書きを見て、プレミアムがいいかなと思って選びました。前回一番初めにパワーポイントの翻訳をお願いしたときに、すごいな、よく読んでいただいたなと。そのあと出てきた翻訳がそれに輪をかけてすごくよかったので、2回目はあまり迷わず。1回目のときは40分話そうというセリフ付きで、すごく長かったのに、満足のいくものが出てきました。

――― ありがとうございます。よそ様と比べることもなく。

(大木) 2回目はそう。1回目はもう1社相見積もりを取ったんですけど、もっと高くて、しかも翻訳期間も長かったような。

――― こうなったら良いなといった、改善点のご要望はございますか。

(大木) 今のところ本当に非常に満足していて、思いつかないですね。本当によくしてもらったんです。通常、論文の参照文献をURLで示しますが、URLが分からなくて空欄にしたまま翻訳をお願いしたら、そこを埋めてもらったり。

――― よかったです。

(大木) すごく細やかにやっていただいたと思ってます。

――― 携わらせて頂いたスタッフに伝えさせていただきます。また今後も同じクオリティで提供し続けるように、とも伝えておきます。

論文を出すだけでなく、たくさんのプロジェクトに関わりたい

――― ずっと光に関係してきて研究を進めてらっしゃいますけど、今後も現在のご研究を深めて広げていかれたいですか。

(大木) 今は学生もやりながら研究活動をしていますが、卒業したらもう少し実務を支援する方向に進みたいと考えています。研究も、自分の名前で1つ論文を出すよりも、自分がお手伝いすることで3つ出すとか。そういうふうになりたいと思ってます。

――― 研究の結果を活かして、実務レベルで共有できたり、改善に共有できることであったり。ほかの人の手助けになるような研究の巡らせ方というか。

(大木) はい。そして、若い人にも、ぜひこの業務を経験してもらいたいと思っています。でもなかなか若い人が入ってくる機会がなくて。若い人はいろいろな部署をローテーションしていて、こういった特殊な部署に来てもらうのは、なかなか難しいんです。

――― 長期的な人材育成が行われているのですね。大木様も入社間もないころには現場行かれたりとか?

(大木) 行きました。すごい若いときで本当にもう、伝書鳩的な。「こう言ってました」って。現場と設計、見積もりと、部署をローテーションして、ここに落ち着いたっていう。

――― 今のお姿からは想像つきません。でもその経験も、今の光環境研究の中に生かされている貴重なものですね。

貴重なお話を本当にありがとうございました。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

エディテージはカクタス・コミュニケーションズが運営するサービスブランドです。学術論文校正・校閲、学術翻訳、論文投稿支援、テープ起こし・ナレーションといった全方位的な出版支援ソリューションを提供しています。

目次