情報化社会のためのサイエンスコミュニケーション

Unlocking science communication for a better-informed society

サイエンスコミュニケーションとは? なぜ一般聴衆に伝えることが重要なのでしょうか?

Pollinators Prefer a Dash of Salt in Their Nectar(花粉媒介者は花蜜に少量の塩を入れることを好む)」-これは昨年『Discover』誌に掲載されたサイエンスコミュニケーション記事のタイトルです。この記事は、ナトリウムの含有量が多い花ほど花粉媒介者を多く引き寄せるという調査研究に関するものでした。この記事を読んだ読者は、自分の庭の花に塩水を少しかけるだけで、ミツバチやチョウをより多く呼び寄せることができる可能性があることに気づき、大いに興味をそそられました1

サイエンスコミュニケーションは、複雑な専門用語が散りばめられた「科学」を、興味深く親しみやすい形で一般の人々に届けます。でも、なぜそんなことをする必要があるのでしょうか?

医療、農業、交通、建築、通信技術、発電などなど、私たちの周りには科学の進歩による製品があふれています。私たちの存在そのものから、私たちを取り巻く自然界に至るまで、すべては科学の奇跡です。さらに私たちは、より良い生活と持続可能な未来のためのソリューションを提供してくれる科学技術に、かつてないほど依存する時代に生きています。

気候変動、水不足、食糧不安、生物多様性の損失、健康危機など多くの課題(STEMの側面を含む)において深刻な状況に陥っていることを考えると、十分な情報に基づいた意思決定を行うために必要な科学的視点を人々が理解することは極めて重要です。

サイエンスコミュニケーションがその明白な答えです。サイエンスコミュニケーションの役割にはさまざまなものがあります。サイエンスコミュニケーションの目標には以下のようなものがあります2

  • 科学的発見を伝え、新たな得た知識の興奮を分かち合う。
  • 自分の住む世界を科学的に理解し、人生をより適切に生きられるようにする。
  • 特定の問題に関連する科学について人々を教育する。
  • 社会全体に直接影響を与える場合、人々の考えや行動、政策の選択を方向づける。
  • 地域社会と交流し、彼らの懸念事項(科学的研究を通じて対処できる可能性のある懸念事項)を理解しようと努める。

こうした目標とは別に、効果的なサイエンスコミュニケーションは、誤った情報との戦いに大きな役割を果たします。デジタルメディアやソーシャルメディアの出現により、誤った情報がさらに広まり、事実とフィクションの境界が曖昧になりました。ワクチンの安全性、地球の形、進化、気候変動といったトピックは、長年にわたって誤った情報が出され続けています。2019年のCOVID-19のパンデミックで事態はさらに悪化しました。ウイルスの蔓延を抑えるために正確な科学的情報を国民に伝えることが非常に重要であった時期に、誤った情報がサイエンスコミュニケーションを上回ってしまったのです。デマや陰謀論サイトが5200万以上のエンゲージメントを獲得したのと比べて、世界保健機関(WHO)とアメリア疾病予防管理センター(CDC)の投稿は併せても数十万エンゲージメントにとどまったのです3

どうすれば一般の人々に効果的にアプローチできるのでしょうか?

サイエンスコミュニケーションの重要性を考慮すると、コミュニケーターには、正確な科学情報を伝えるだけでなく、それを魅力的で関連性のあるものにするという責任が求められます。変化をもたらすのに十分な関心を人々が持つやめに、私たちは事実や数字を伝える以上のことをしなければならないのです。サイエンスコミュニケーションは、一般の人々と科学との間に、より大きな、より感情的なつながりを呼び起こすように努めなければなりません3

そのため、サイエンスコミュニケーションは、単に文字だけでなく、より多くのコミュニケーションの手段を用いなければなりません。ソーシャルメディアへの投稿、ポッドキャスト、公開討論会、演劇、漫画、映画、ビデオ、アニメーションやイラスト、歌やダンス、科学センターや科学博物館などの手段を活用して、意識と科学リテラシーを高める必要があります。コミュニケーションの役割には、その分野で活躍する研究者と、さまざまな芸術分野のコミュニケーション専門家の両方が関与すべきです。

効果的なサイエンスコミュニケーションのためのヒント

サイエンスコミュニケーターは、聴衆の文化や背景を理解し、それに応じてコミュニケーション資料を作成する必要があります。伝統的なジャーナリズムの分野では、他のセンセーショナルなニュースや人気のあるニュースとの競合を考慮して、研究者や研究に影響を受けた個人による個人的な逸話を交えた科学ストーリーが掲載される可能性が高くなります4。研究における課題、障害、ハードルをその結果とともに議論することで、科学の物語により共感しやすいストーリーが与えられます5。そのようなストーリーは信頼を築くことにつながり、やがて人々はデマよりも科学的に証明された事実を選ぶようになります。

数字やデータは簡略化され、理解しやすい図表やインフォグラフィックとして表示される必要があります。理解を深めるために、専門用語を使わず、概念を細分化しなければなりません。技術的な概念を説明する際には、読者のバックグラウンドに基づいたアナロジーを用いることで、より共感しやすいストーリーにすることができます。優れたライティングやプレゼンテーションのスキルは、流れがスムーズで、メッセージを明確に伝えるストーリーを展開するのに役立ちます。ストーリーの中で、重要で最も関連性の高いポイントが明確に強調され、他の内容で薄められることがないようにしなければなりません。

今日のサイエンスコミュニケーションは、科学者が一般の人々に自分たちの研究について説教するような、単なる普及活動の枠を超えています。現在では、科学者と一般の人々との対話が求められており、一般の人々が積極的に参加し、研究コミュニティと相互に意見、価値観、経験、懸念を交換することが求められています6

従来のサイエンスコミュニケーションの例

クイーンズランド大学は、アフリカの妊婦が飲んでいたハーブティーが、植物由来の循環型ペプチドという偶然の発見につながったという記事を発表しました。この種のペプチドは、庭で栽培できる食用植物医薬品として、医薬品市場に革命をもたらす可能性があります7。この記事は明確なサイエンスコミュニケーションでありながら、植物由来のペプチドが発見されるまでの過程や、発見されるに至った出来事、そして発見された後の出来事など、魅力的なストーリーとして読むことができます。

もちろん、すべてのサイエンスコミュニケーションがストーリーになるわけではありません。サイエンスコミュニケーションで失敗した例を挙げてみましょう。COVID-19のパンデミックの際、米国疾病予防管理センター(CDC)は、ワクチン接種後のマスク使用について人々を指導するための一連のガイドラインを発表しました。彼らは、ワクチン接種を受けた人はマスクの使用を止め、ソーシャルディスタンスをとる必要はないと宣言し、ワクチンの有効性を示しました。しかし、このコミュニケーションは、医療専門家からも混乱を招くものだと言われました。パンデミック中、それは不明瞭なメッセージであり、一般的には人々にとって安全でないと認識されていました8.9

2017年に『Nature』に掲載されたこの記事10では、著者のEsther Landhuisが、複雑な糖鎖生物学を魅力的なストーリーに巧みに翻訳し、この分野で働く科学者の実際の逸話と実験的糖鎖生物学を巧みに織り交ぜています。新しく登場したこの分野の人間味溢れる説明は、生物学的分子としての糖鎖の重要性、糖鎖の研究に関連する技術的課題、この分野の技術的進歩がどのようにしてこれらの分子の研究におけるギャップを埋め始めたかを示し、そして将来的な意義を紹介しながら、このテーマの概要を説明しています。本書は、糖鎖生物学の専門家でない読者にも、糖鎖生物学のエッセンスを魅力的な語り口で伝える、非常に読み応えのある内容となっています。

結論

サイエンスコミュニケーションとは、単に科学情報を広めることではありません。より多くの情報と権限を持った人々を構築するための手段なのです。サイエンスコミュニケーションの世界には多くの課題がありますが、忍耐と粘り強さがあれば、不信と科学音痴の壁を打ち破ることができるはずです。サイエンスコミュニケーションの効果的な方法を実践し、対話や討論への一般市民の参加を確保することが、大いに役立つはずです。

参考文献

  1. Ball, J. From Math Models to Bee Species: How Effective Science Communication Benefits All. Ecology & Evolution Community http://ecoevocommunity.nature.com/posts/from-math-models-to-bee-species-how-effective-science-communication-benefits-all (2023).
  2. Committee on the Science of Science Communication: A Research Agenda, Division of Behavioral and Social Sciences and Education, & National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. Communicating Science Effectively: A Research Agenda. 23674 (National Academies Press, 2017). doi:10.17226/23674.
  3. Joubert, M., Davis, L. & Metcalfe, J. Storytelling: the soul of science communication. J. Sci. Commun. 18, E (2019).
  4. Bubela, T. et al. Science communication reconsidered. Nat. Biotechnol. 27, 514–518 (2009).
  5. Cooke, S. J. et al. Considerations for effective science communication. FACETS 2, 233–248 (2017).
  6. Reincke, C. M., Bredenoord, A. L. & van Mil, M. H. From deficit to dialogue in science communication. EMBO Rep. 21, e51278 (2020).
  7. Dempsey-Jones, H. Out of Africa. https://stories.uq.edu.au/research/impact/2020/out-of-africa/index.html.
  8. Brangham, W. How the latest CDC guidance on COVID-19 is creating unnecessary confusion. PBS NewsHour https://www.pbs.org/newshour/show/how-the-latest-cdc-guidance-on-covid-19-is-creating-unnecessary-confusioncovid-confusion (2022).
  9. Stanley-Becker, I., Guarino, B., Sellers, F. S., Cha, A. E. & Sun, L. H. CDC’s mask guidance spurs confusion and criticism, as well as celebration. Washington Post (2021).
  10. Landhuis, E. Glycobiology: Sweet success. Nature 547, 127–129 (2017).

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この記事を書いた人

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