エディテージ・グラント2025にて次点を受賞した岡本 雅志さんに、入賞した喜びやご自身の研究について、グラントに応募して感じたことなどを語っていただきました。
岡本 雅志さんプロフィール
Masashi Okamoto
大阪大学医学部卒業後、免疫内科医として自己免疫疾患の診療に従事。自己免疫性疾患をはじめとする患者の診療を通じて臨床研究にも取り組み、自己免疫疾患患者におけるCOVID-19のリスクに関する研究成果をArthritis & Rheumatology誌に筆頭著者として発表。その後、病態の根本原因にアプローチするため基礎研究の道へ進み、現在は大阪大学大学院医学系研究科にてiPS細胞・オルガノイド研究の世界的権威である武部貴則教授の指導の下、博士課程に在籍。iPS細胞とオルガノイド技術を用いた自己免疫性肝炎の疾患モデル構築に取り組んでいる。
休日は体を動かすことが好きでランニングや散歩でリフレッシュしているほか、読書も好きで、医学以外の分野の本にも幅広く目を通すようにしている。研究で煮詰まったときは、少し離れた分野の本を読むことで新しい視点が得られることもあり、良い気分転換になっている。

受賞した研究内容について
自己免疫性肝炎(AIH)という、自身の免疫系が肝臓を攻撃してしまう難病の発症メカニズムの解明に取り組んでいます。特に日本人AIH患者さんに多く見られるHLA-DR4という遺伝子タイプに着目し、「なぜこの遺伝子を持つと病気を発症しやすくなるのか」という根本的な問いに挑んでいます。具体的には、患者さん由来のiPS細胞から肝臓オルガノイド(ミニ臓器)と免疫細胞を作り出し、試験管内で自己免疫反応を再現する独自の疾患モデルを構築しています。従来の研究手法では不可能だった「ヒトの体内で実際に起きている自己免疫のメカニズム」を精密に解き明かすことで、より安全で効果的な治療法の開発につなげることを目指しています。
エディテージ・グラント2025次点を受賞して
この度は次点に選んでいただき、大変光栄に思っております。臨床から基礎研究メインの生活に移った中で、自分の研究の方向性が認められたことは、大きな励みになりました。自己免疫性疾患に苦しむ患者さんのために、iPS細胞やオルガノイドという新しい技術でアプローチするという挑戦的な研究テーマを評価していただけたことに、心から感謝しています。この受賞を糧に、より一層研究に邁進していきたいと思います。
ご自身の研究について
現在は、iPS細胞から肝臓オルガノイドや免疫細胞を分化誘導する技術の確立と、それらを組み合わせた自己免疫性肝炎の疾患モデルの構築を日々の研究活動の中心としています。肝臓オルガノイドの作製プロトコールについては、書籍『決定版 オルガノイド実験スタンダード 第2版』(羊土社)に筆頭著者として執筆し、技術の共有にも努めています。また、免疫内科医としての臨床経験を活かし、基礎研究と臨床をつなぐトランスレーショナルリサーチを意識しながら活動しています。
この研究に取り組んだきっかけは、免疫内科の臨床医として、自己免疫疾患の患者さんと向き合ってきたことです。現行の治療法では免疫全体を抑え込むため、感染症などの副作用リスクと隣り合わせの生活を送られている患者さんを目の当たりにする中で、「もっと根本的な解決策はないのか」という強い思いを抱くようになりました。この臨床現場での課題意識が、私をiPS細胞やオルガノイドを用いた基礎研究の道へと突き動かしました。病気の原因に直接アプローチする、より安全で効果的な治療法を開発したいという思いが、今の研究の原動力になっています。
今後はまず、今回の研究計画を完遂し、HLA-DR4関連自己免疫性肝炎の病因メカニズムを明らかにしたいと考えています。その成果を基盤として、確立したiPS疾患モデルを創薬スクリーニングのプラットフォームへと発展させ、より安全で効果的な治療薬の候補を見出すことを目指しています。さらに長期的には、本研究で確立した手法を関節リウマチなど他の自己免疫疾患にも応用・展開し、個別化医療の実現に貢献したいです。将来的にも、臨床的視点と基礎研究技術を融合させる独立した研究を続けながら、難治性免疫疾患の根本治療法の確立を目指していきたいと思っています。
エディテージ・グラントに応募した理由
研究室に貼られている案内を見て、エディテージ・グラントの存在を知りました。iPS細胞やオルガノイドを用いた研究には高額な試薬や解析費用が必要になります。研究を本格的に始動させるための初期資金を確保したいという思いがありました。また、エディテージ・グラントが「若手研究者が基礎研究のスタートラインに立つための助走を支える」ことを目指しているという理念に共感し、まさに今の自分の状況に合致していると感じたため、応募を決めました。
グラントへの応募にあたり、苦労したことや工夫したこと
エッセイ形式で自分の研究を表現するのは初めての経験で、苦労した部分もありました。普段は論文や研究計画書など定型的な文章を書くことが多いため、自分の研究への思いや動機を自然な言葉で伝えることに最初は戸惑いました。工夫した点としては、臨床医として患者さんと向き合ってきた経験から感じた課題意識を出発点にして、なぜこの研究が必要なのかを読み手に伝わるよう意識して書きました。専門用語をなるべく分かりやすく説明することにも気を配りました。
エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと
エディテージ・グラントと他の助成金プログラムの最も大きな違いはエッセイ形式であることだと感じました。一般的な助成金では研究計画書や業績リストが重視されますが、エディテージ・グラントでは自分の研究に対する思いや動機をエッセイとして自由に表現できる点がユニークです。業績の数だけでは測れない、研究に対する情熱や将来のビジョンを伝えられる機会があるのは、若手研究者にとって非常にありがたいと思いました。
またエディテージ・グラントは、応募から選考、セレモニーまで、スタッフの皆様の対応がとても丁寧で安心感がありました。セレモニーでは他の受賞者の方々の研究発表を聞くことができ、異分野の研究者と交流できたことも非常に貴重な経験でした。自分とは全く異なる分野で挑戦されている方々の話を聞くことで、研究に対するモチベーションがさらに高まりました。若手研究者にとって、このような場を提供してくださるエディテージ・グラントの取り組みに感謝しています。
普段、若手研究者として感じていること
臨床の外来を続けながら、基礎研究の両立は時間的にも体力的にも大変ですが、臨床現場で感じた課題を自分の手で解決できる可能性があるという点では、非常にやりがいを感じています。一方で、若手研究者が独自の研究テーマを立ち上げる際には、資金面でのハードルが高いと感じることもあります。特にiPS細胞やオルガノイドの研究は試薬や解析のコストがかさむため、初期段階での支援は非常に重要です。同じように研究を志す若手の仲間と切磋琢磨しながら、一歩ずつ前に進んでいきたいと思っています。
