科学界では、AIの利用がある程度定着しつつあります。Wileyによる2025年の調査[1]によると、調査対象者2,400人のうち85%が、AIによって効率が向上したと回答しています。さらに、原稿作成、出版計画、ジャーナルへの投稿、さらには研究のプロモーションといった特定の研究関連業務におけるAIツールの利用率は、45%(2024年)から62% (2025年)へと大幅に増加しました。
AIの導入が急速に進んでいるとはいえ、研究者は慎重な姿勢を保つべきです。AIの長所と短所、そして人間の専門知識が真価を発揮する場面を把握することで、AIツールの利用について、十分な情報に基づいた意識的な判断を下すことができます。この記事では、研究論文の執筆においてAIが最も得意とする分野、AIツールにどの程度依存すべきか、AIツールの弱点をどのように見極めるか、そして研究論文の執筆において依然として人間の介入が必要な側面について解説します。
AIの強み
スピード
ツールの目的は常に効率化です。時間を節約するために、即座に結果を得ることが重要です。編集、推敲、書き直し、言い換え、さらには生成(理想的には推奨されませんが)したいあらゆるテキストの出力が、数分以内に提供されます。
例えば、要約を書き上げたものの、投稿先のジャーナルが推奨する単語数制限を超えてしまったとします。Paperpalのようなライティングツールを使えば、意図した意味を変えることなく、要件に合わせて文章を簡潔にし、単語数を削減して、その結果を即座に確認できます。専門家による校正サービスを利用した場合、たとえ迅速な対応を依頼しても、少なくとも4~8時間はかかるでしょう。
文法の修正
大規模言語モデル(LLM)は、通常、文法上の誤りを特定して修正するように学習されています。特に英語を母語としない著者は、英語の文法に苦労することがよくあります。なぜなら、冠詞、副詞、接続詞、その他の品詞の正しい選び方は、英語を母語とする著者ほど容易ではないからです。
AIライティングツールや、MS Wordに組み込まれている機能を利用すれば、こうした間違いを見つけ出し、正しい表現を提案してもらうことができます。例えば、次のような例を考えてみましょう。
| 著者が書いた文章 | AIが修正した文章 | 何が修正されたのか |
| The results shows that the two groups displays better performance than… | The results show that the two groups display better performance than… | 複数主語 「results」 には複数動詞 「show」が、複数主語 「groups」 には 複数動詞「display」 が、単数主語 「study」 には単数動詞 「aims」が続きます。 |
| The study aim to investigate… | The study aims to investigate… |
しかし、上記の例にはまだ続きがあります。修正された文がなぜまだ正しくないのか、以下を読み進めて確認してください。
言語表現の向上と文章作成
学術論文を書くということは、単に研究結果を報告するだけではありません。言語表現の正確さも重要です。多くの研究者、特に英語を母語としない人々は、フォーマルな学術論文の文体で自分の意見を表現することに苦労しています。「使った言葉のせいで、ESL(英語を第二言語とする)の著者だと思われてしまったらどうしよう? どうすれば、よりネイティブと思われるように文章を改善できるだろうか?」。これはよくある悩みですが、AIツールがその解決に役立ちます。
様々な文体の違いを的確に判断できるようトレーニングされたLLM(大規模言語モデル)は、学術的な基準を満たす形で、あなたの意見を洗練・磨き上げ、質を高め、書き直すのに役立ちます。例えば、学術執筆を支援するために特別に設計されたツールであるPaperpalの言い換えや書き直しといった機能を使えば、本来の意図した意味を変えることなく、研究論文の文章を向上させることができます。
しかし、こうした強みがあっても、学術的な文章作成においてAIだけで十分だということにはなりません。実際、汎用的なAIツールは、あなたが思っている以上に厄介な問題を引き起こす可能性があります。
AIツールの弱点
AIツールに共通する欠点としては、以下のようなものが挙げられます。
- 文脈の理解不足
- 詳細な説明を伴わない表面的な修正
- ハルシネーションや引用の捏造
- 科学的推論の欠如
- 査読者への回答作成において査読者の期待を認識できないこと
- 著者の文体を損なう機械的な文章パターン
など、挙げればきりがありません。
しかし、もはや問題はこうした明らかな欠点だけにとどまりません。多くのトップジャーナルがAI利用に関する明確なガイドラインを定めているものの、著者にとっての大きな懸念は、「自分の文章がAIによるものと判定されたらどうなるのか?」ということです。
また、EU AI法に準拠するため、ClaudeのようなツールがAI生成コンテンツに透かしを入れる[2]ようになっていることから、他のAIツールもこれに追随する可能性が高いと思われます。これは著者にとってどのような意味を持つのでしょうか?
例えば、AIを使わずに研究論文を書いたとしましょう。ただし、文章を推敲したり、文法ミスをチェックしたりするために、AIツールで校正したいとします。あるいは、表を作成する必要がある場合を考えてみましょう。ツールにデータを入力し、提供された詳細情報を適切な形式の表に変換するよう指示します。ツールから出力されたものは、たとえアイデアがもともとあなた自身のものであったとしても、目に見えない透かしによって「AI生成」とタグ付けされてしまいます。そして、ジャーナルが自社開発のツールや外部の検出ツールを使用して投稿論文のAI検出チェックを行った場合、その透かしが付いているため、あなたのコンテンツはAI生成としてフラグが立てられる可能性が非常に高くなります。
EU AI法[3]によってより厳格な規則が定められれば、ツールはコンプライアンスを確保するために引き続き動作方法を修正していくでしょう。もちろん、ジャーナルや出版社もAIの使用に関するガイドラインの改訂を検討することになるはずです。しかし、重要なポイントは、人間の監視と介入が不可欠であるということです。
専門の校正者が持つ強み
著者であるあなたは、AIツールが自身の研究論文の執筆にどの程度貢献しているかを監督すべきです。これが監督責任です。しかし、専門の校正者には、研究論文の作成を推進する独自の強みがあります。
科学的推論
AIツールの主な弱点のひとつは、修正を行う際に科学的推論を適用する能力に欠けることです。その分野の専門家でもある英文校正者は、コメントや直接的な修正を通じて、説得力のある根拠とともに著者に信頼できるガイダンスを提供します。
例えば、エディテージの校正者の1人が、具体的な追加情報を加えることで論文の論理的なギャップを埋めることができることに気づきました。以下は、その編集者が著者に残したコメントです。
“Please explain the case history effectively by describing any prior therapeutic or surgical interventions. Also, explain the characteristics of the tumor mass. You may even provide details of the surgical procedures and any post-operative complications to complete the section appropriately with thorough details of the analysis.”
文脈の理解
先ほど紹介した例を思い出してください。AIツールが文法ミスを修正したものの、その修正が依然として不正確だった例です。その理由は次の通りです。
問題の文章は論文の「結論」のセクションに書かれていました。つまり、その情報は論文の最後に登場し、「これから研究される内容」ではなく「完了した研究」について言及していたのです。そのため、動詞の修正だけでなく、時制の修正も必要だったのです。
| 著者が書いた文章 | AIが修正した文章 | 何が修正されたのか | 人間が編集した文章 | 何が修正されたのか |
| The results shows that the two groups displays better performance than… | The results show that the two groups display better performance than… | 複数主語 「results」 には複数動詞 「show」が、複数主語 「groups」 には 複数動詞「display」 が、単数主語 「study」 には単数動詞 「aims」が続きます。 | The results showed that the two groups performed better than… | 校正者は、これらの文が結論部分の一部であることに気づき、動詞の過去形を使用しました。 |
| The study aim to investigate… | The study aims to investigate… | This study investigated… |
こうした文脈の理解は、人間の校正者が完成度の高い論文にもたらす付加価値の一例に過ぎません。学術論文においては、その学問分野に関する知識、専門分野における専門性、分野特有の用語への習熟度――これらすべてが研究の文脈に深く関わっています。だからこそ、人間による校正は依然として不可欠なのです。
分野固有の用語
非科学的・非学術的なデータセットでトレーニングされたAIツールは、文章を改善するための一般的な提案を行う傾向があります。例えば、AIは非ネイティブな表現を見落としがちです。文法的に正しい場合、AIは学術的な文章においても口語的な表現や一般用語をそのまま残してしまいます。
しかし、専門の校正者によって丁寧に校正された原稿は、文書全体を通じて学術的な執筆慣例やその分野にふさわしい表現を遵守しています。例えば、以下の文章をご覧ください。校正者が、その分野特有の用語を使用しつつ、英語として不自然なトーンや会話調の表現を排除し、文章を洗練させながらも著者の個性を確実に保っていることがお分かりいただけるでしょう。
原文
And, spectral data can be used to form databases that, in the future, will allow the development of computational platforms for multi diagnosis, starting from a single biological sample. In other words, by obtaining a spectrum and comparing it with spectra stored in databases, it will be possible to identify the infections in an individual, without the need for specific tests for each pathogen.
専門家が編集したテキスト
Furthermore, spectral data can be utilized to create databases that may facilitate the future development of computational platforms for multi-diagnostic assessments based on a single biological sample. This approach enables the identification of infections in individuals by comparing obtained spectra with pre-existing spectra stored in databases, thus eliminating the need for specific tests for each pathogen.
査読者の期待
エディテージなどの英文校正者の多くは、自らも研究者であるか、出版業界の関係者と頻繁に交流を持っています。彼らは、査読者が原稿に何を求めているかを熟知しています。
- 適切な見出し:査読者が論文にざっと目を通したり、必要な情報を見つけたりしやすくするため
- 参考文献の適切な引用:査読者が著者の主張の信憑性を確認できるようにするため
- 図、表、グラフ、地図、その他の視覚的要素への正確な参照:査読を円滑に進めるため
- 方法論に関する十分な詳細:研究の実施方法が明確かつ網羅的であることを保証するため
校正者は論文を確認する際、これらの点に不備がないかを確認します。場合によっては、過去に特定のジャーナルで査読を担当した経験を持つ校正者もいるため、投稿論文の準備状況を検証・確認するための、優れた外部からの意見源となるでしょう。
出版戦略
英文校正サービスの中には、基本的な校正作業を超えたものもあります。適切なサポート体制を整え、出版戦略全体の立案を支援してくれます。投稿先ジャーナルの提案や図版のフォーマット調整から再投稿のサポートに至るまで、確固たる出版戦略を立てることで、論文が採用される可能性を最大限に高めることができます。以下のようなアドバイスを受けることができます。
- そのジャーナルに過去に掲載された研究論文を専門家が分析し、あなたの論文が採用される可能性が最も高いジャーナルを選定
- ジャーナル編集者に適切な第一印象を与えるためのカバーレターの最適な書き方
- 特定のジャーナルに合わせて調整された投稿パッケージ全体の最終調整
- 実際の投稿前に専門家による模擬査読を行い、リジェクトの理由として挙げられそうな誤りを特定・修正
このような出版に向けたきめ細かなサポート体制は、文法や言語の誤りを修正するだけのAIツールよりも、はるかに大きな効果をもたらします。
まとめ:AIの活用と人間の洞察力のバランスをとる
ほとんどのジャーナルでは、著者がAIツールを使用したことを理由にペナルティを課すことはありません。しかし、AIの使用を開示しないことや、AIツールの非倫理的な使用は、間違いなく不正行為とみなされます。したがって、AIの活用と人間の洞察力という2つの要素の間で適切なバランスを見出すことが重要です。どのタスクがAIによってうまく実行できるか、また論文の校正においてどの部分に人間の専門知識が必要かを把握しましょう。正しい選択を行うことで、研究の誠実性が確保され、著者らしい文体が保たれ、AIの倫理的な使用が保証されます。
参考文献
- AI Adoption Jumps to 84% Among Researchers as Expectations Undergo Significant ‘Reality Check’ https://newsroom.wiley.com/press-releases/press-release-details/2025/AI-Adoption-Jumps-to-84-Among-Researchers-as-Expectations-Undergo-Significant-Reality-Check/default.aspx
- How Claude marks AI-generated content https://support.claude.com/en/articles/16266773-how-claude-marks-ai-generated-content
- EU artificial intelligence act https://artificialintelligenceact.eu/
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。


