持続可能なやり方を現代の研究に取り入れるには

How to incorporate sustainable practices in modern research

現代世界では、さまざまな理由から、かつてないペースで研究が進歩しています。出版競争と技術革新は、エネルギーと資源を犠牲にしながらも、その規模を大きくする一因となっています。研究者は、持続可能性と倫理の観点から研究の実践を再検討し、評価することが重要です。持続可能性とは、私たちのコミュニティと環境との関係であり、倫理とは、私たちの行動を通じて他者への危害を最小限に抑えるために取られるアプローチです1

研究者が直面する特有の課題がいくつかあります。研究分野、地理的な位置、再生不可能な資源への依存、社会的・経済的要因など、さまざまな問題が研究実践の持続可能性に影響を与える可能性があります。さらに研究者は、研究のやり方に大幅な変更を加える前に、時間、費用、健康と安全面、および実現可能性を総合的に考慮する必要があります1,2。その選択は、研究コミュニティの他の人々が従うべき基準を設定するのに役立つかもしれません。

「必要なことから始めなさい。次に、可能なことを実行します。すると、いつの間にかそれまで不可能だったことができるようになっているのです」-アッシジのフランチェスコ

大規模な変化を考えることは、最初は気が遠くなるように思えるかもしれません。しかし、時間が経てば、自然とできるようになり、日々の研究活動に簡単に取り入れることができる可能性があります。特に、持続可能で倫理的な研究手法の遵守に努めている研究機関を知っている場合は、他の研究機関が適応し、遵守している既存のガイドラインを参考にするとよいでしょう。その中には、プラスチックや使い捨ての実験器具の使用量を減らす、安全な化学薬品は再利用するなど、「常識」のように見えるものも含まれています。

この記事では、研究室や研究の場で持続可能な目標を達成するために、研究者が取ることのできる実行可能なステップをいくつかご紹介します。

自分自身を教育

研究者は、持続可能性について、自分自身やチーム内の他の研究者を教育する必要があります。そうすることで、流行やトレンドに振り回されることなく、チームが従うべき原則に導くことに役立ちます。

影響を評価

次のステップは、研究活動が環境や社会に与える影響を評価することです。以下は、研究活動でどのようなことを評価し、どこで無駄が発生しているかを特定するためのアイデアです。

・冷蔵保管管理
サンプルの統合、解凍、温度管理、未使用機器のコンセントの抜き差し

・換気フード
使用しないときは換気フードを閉める

・節水
流量を減らすバルブ、水を使用する機器のアップグレード

・照明
エネルギー効率の良い照明を使用する、可能であれば日光を利用する

・廃棄物の削減
資源を効率的に管理する、必要なものだけを注文する、消耗品を再利用する

・代替品
有害物質を無害な代替品に置き換える

・交換と再利用
消耗品や重複を減らすために他の人と消耗品を共有する

・安全な廃棄
有害な廃棄物は正しく処理すること

研究デザイン

慎重かつ厳密な研究計画は、無駄を省くのに役立ちます。他の研究者が結果を信頼し、再現性を確保できるような方法で実験を行ないます。方法を最適化し、他の研究者があなたの研究を再現し、それを基に研究を進めることができるよう、十分な詳細を提供しましょう。さもなければ、その後の研究が冗長になり、資金、時間、資源を無駄に浪費する可能性があります。

研究プラン

共同研究者のスケジュール、共有機材の使用依頼、理想的な気象条件(フィールドワークの場合など)を考慮しながら、事前に研究の計画を立てます。

時間管理

研究を効率的に行なうには、規律ある時間管理が不可欠です。これは、無駄を最小限に抑えて研究作業を実施し、最良の結果が得られるようにするための設計や計画と結びついています。

定期的な議論

研究と同様、持続可能性と倫理的実践も、仲間同士やより広範なコミュニティとの定期的な議論を通じて、よりよく発展させることができます。それにより、さまざまな進展に気づき、新たな視点を得て、新しいアイデアを受け入れることができるようになります。

ガイドラインを作成

持続可能な実践に関する大まかなガイドラインを作成しておくと便利で、リマインダーとしても役立ちます。さらに、より詳細な指示やチームへの提案を文書化した小冊子を作成するのも有効です。誰もが参照できる簡単な配布資料やポスターは、全員が従うべき“道しるべ”になります。

実践

一度にすべてを実践することが不可能な場合は、体系的かつ段階的に変更を実施します。研究者は、まず簡単で最も実行可能なことを特定し、その影響を確認します。検討すべき簡単なステップの例をいくつか紹介します。

・リモート会議
多くの研究者は、他の研究者や研究参加者と交流するために、物理的な移動をするのではなく電話会議/ビデオ会議のオプションを選択しています。研究者は、データと対話の品質が損なわれないように、リモート会議を物理的な会議と同程度に効果的なものにするにはどうすればよいかを検討するために、段階的にリモート会議を導入してみるといいでしょう。

・リデュース、リユース、リサイクル
-高価な方法に代わる、賢くて費用対効果の高い方法を見つける
-生分解性の機器を使用する 
-機器や化学薬品を他の研究者と共有する

・天然資源を大切にする
-研究目的で植物や動物の標本を不適切または無差別に採集しない
-研究活動の中心地周辺の生態系を乱さないようにする

実践を奨励

新しいガイドラインに慣れ、試した後は、研究所の他の人が参加できるような持続可能性を意識したイベントや活動を設定します。若手研究者や学生にイノベーション・チャレンジに参加してもらい、問題に対する新しい解決策を考えてもらいましょう。また、チームや研究機関内で持続可能な実践を奨励し、表彰や助成金、賞を与えることも、全員が新しい研究方法に挑戦することを奨励する素晴らしい方法です。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)3 のHoesung Lee 氏は、「信頼があり、全員が協力してリスク削減を優先し、利益と負担が公平に分かち合える場合、変革に成功する可能性が高くなる」と述べています。

参考文献

  1. Nelson, M. P. & Vucetich, J. A. (2012) Sustainability Science: Ethical Foundations and Emerging Challenges. Nature Education Knowledge 3(10):12 
  2. Ligozat A-L, Névéol A, Daly B, Frenoux E (2020) Ten simple rules to make your research more sustainable. PLoS Comput Biol 16(9): e1008148. https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1008148 
  3. AR6 Synthesis Report: Climate Change 2023 — IPCC  https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-cycle/  Last accessed 16th August 2023 

この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

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この記事を書いた人

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