エディテージ・グラント2025にて大賞を受賞したSanjeeta Sharma Pokharelさんに、大賞を受賞した喜びやご自身の研究について、グラントに応募して感じたことなどを語っていただきました。
Sanjeeta Sharma Pokharelさんプロフィール
Sanjeeta Sharma Pokharel
ゾウを専門とする生物学者。急速に変化する環境の中で、大型哺乳類がどのように生存・適応するのかに関心を持ち、10年以上にわたり野生および飼育下のアジアゾウを対象に研究を行う。インド科学大学院大学でゾウ生態学の博士号を取得後、スミソニアン保全生物学研究所などで博士研究員として研鑽を積み、日本学術振興会(JSPS)のプログラムのもと京都大学でも研究に従事。現在は京都大学白眉センター特定助教として、現生種に加え絶滅種を含む長鼻類へと研究対象を拡大し、進化的視点から適応メカニズムの解明と生物多様性保全への貢献を目指している。
漫画家・詩人としても活動しており、創造性を軸に、想像力と物語の力で科学をわかりやすく伝えている。漫画『ブンテ:仔ゾウ』を通じてゾウの生態や保全を発信し、感性と知識を結びつけながら人と自然の関係を描いている。

受賞した研究内容について
受賞した研究は、現生および絶滅した長鼻類における生理学的適応の理解を目的としています。これまでの約10年にわたる研究により、アジアゾウのような大型哺乳類が、生態系の急速な変化に応答して生理的に調整する能力、すなわち高い生理的可塑性を示すことを明らかにしてきました。これらの成果は、現存種の持つレジリエンスを示すだけでなく、より深い進化的問いを探究するための科学的基盤を提供するものでもあります。こうした知見を基盤として、現在私は研究対象を過去へと拡張し、絶滅した長鼻類においても同様の生理的メカニズムが存在していたのかを検証しようとしています。言い換えれば、「現在」から得られた知識を用いて「過去」を照らし出そうとしているのです。現代の生理学的手法と進化学的視点を統合することで、これら古代の大型哺乳類が環境変動という課題にどのように応答していたのかを再構築することを目指しています。長期的には、本研究は絶滅現象の背後にある複雑な要因の理解、あるいは少なくともその解明への重要な手がかりを提供する可能性があります。そして最終的には、なぜある種は絶滅し、別の種は生き残ることができたのかを学ぶことが、現代社会における生物多様性保全に向けた重要な示唆をもたらすと期待しています。
エディテージ・グラント2025大賞を受賞して
エディテージ・グラントの大賞受賞は、私の研究者人生において自らの歩みを肯定される大きな励みとなりました。ネパールから始まり、国境を越えて科学への情熱を追い求めてきた私にとって、これまでの努力や好奇心が形となって認められたことは非常に感慨深いです。専門分野を越えて自身の研究の価値が認められたことは、大きな喜びでした。
また、他の受賞者たちの研究ストーリーに触れ、科学の原点が「世界を深く理解したい」という純粋な好奇心にあることを再認識しました。多様な背景を持つ研究者が社会に影響を与える姿に、強い刺激と勇気をいただきました。情熱と誠実さを持って取り組む研究は、知の発展に寄与するだけでなく、周囲にインスピレーションを与える力があると確信しています。この経験で得た確信を胸に、今後も未知の探究を続けていきたいです。
ご自身の研究について
私の研究は、インドの過酷な環境でのフィールドワークを基盤とし、ゾウの生理的応答を解明することに主眼を置いています。具体的には、野生ゾウを追跡して糞を採取し、ホルモン代謝物の分析を通じて環境変化が彼らに与える影響を調査しています。特に森林や農地が混在する地域での調査は、忍耐と細心の注意を要しますが、急速な環境変化の中でゾウが生き抜くメカニズムを理解するために不可欠な知見をもたらしています。
この探究心の原点は、人と野生動物が共生するネパールでの生い立ちにあります。人間活動が野生動物の生態に及ぼす影響を間近に見てきた経験から、保全における「人間的側面」、すなわち人間による圧力が野生動物そのものにどのような影響を与えるのかを明らかにしたいという強い動機が生まれました。修士課程での鳥類研究やインドガビアルの生息地調査を経て、博士課程では「人とゾウの関係」という複雑な課題に取り組んでいます。既存の保全研究の多くが人間側の被害対策に偏る中、私は「軋轢がゾウ自身に与える生理的ストレス」に着目しました。ストレス生理学の視点から、人間活動が支配的な環境で生きる動物が支払っている「見えない生物学的コスト」の解明を目指しています。
将来的には、現生ゾウと進化的な祖先の化石記録を統合し、時間的・環境的スケールの両面から適応や生態、行動のメカニズムを深く理解することを目指しています。この研究手法を他の種にも展開し、生物が変化する環境にどのように適応するのかという一般原理を導き出したいと考えています。最終的には、進化生物学、生態学、保全科学を融合させ、科学的根拠に基づいた保全の実現に貢献することを長期的な目標としています。
エディテージ・グラントに応募した理由
エディテージ・グラントは、京都大学の総合研究推進本部(KURA)を通じて知りました。過去の受賞者の質の高さと影響力に感銘を受け、自分の研究もこの支援によって次段階へ発展できると確信し応募を決意しました。財政支援は、研究の多角的な展開や厳密性を高めるだけでなく、新たな挑戦への大きな原動力となります。
選考面接での先生方の前向きなコメントは、自身の研究の価値を再認識させてくれる大きな励みとなり、さらなる高みを目指す動機づけとなりました。また、研究の進展や新たな課題に応じて柔軟に資金を活用できる仕組みは、成果を最大化する上で非常に魅力的です。この支援を糧に、研究プロジェクトをより意義深いものへと進化させていきたいと考えています。
グラントへの応募にあたり、苦労したことや工夫したこと
申請プロセスにおいて特に困難を感じることはありませんでした。応募前の段階で既に研究のコンセプトを明確に構築していたため、自身のアイデアを論理的かつ創造的に表現することに集中することができました。また、申請書の構成も非常に分かりやすく整理されており、研究の目的や意義を一貫性をもって伝えやすいと感じました。さらに、主に英語で研究活動を行っている者として、申請プロセス全体は特に取り組みやすく、円滑に進めることができるものであると感じました。
エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと
エディテージ・グラントについて最も印象的だったのは、申請プロセスの分かりやすさです。従来の助成金は手続きが複雑で、多忙な若手研究者には大きな壁となりますが、このプログラムは非常に体系的で研究者への配慮が行き届いていました。シンプリシティを保ちつつも研究の価値をしっかり伝えられる設計になっており、この「アクセスのしやすさ」が応募への強い後押しとなりました。
選考過程も非常に刺激的でした。トップ10に選ばれ、日本を代表する先生方の前で面接に臨めたことは大きな名誉でした。そこで頂いた前向きで示唆に富むフィードバックは、自分の研究の方向性に確信を与えてくれただけでなく、さらに高みを目指す原動力となりました。
授賞式では、他の受賞者や審査員の先生方と直接議論を交わすことができ、非常に活気ある学術的環境を肌で感じることができました。第一線で活躍する方々から直接意見をいただけたことは、私の研究者人生において長く心に残る、極めて貴重な経験です。この一連のプロセスを通じて、研究への意欲が一段と高まりました。
普段、若手研究者として感じていること
若手研究者として、また助教として研究者キャリアを歩み始めたこの段階において、私は大きな希望と可能性を感じています。この時期は、主として学ぶ立場から、知の創出に主体的に貢献する研究者へと徐々に成長していく、非常に特別な過渡期であると認識しています。もちろん困難もありますが、研究助成や学術的な評価といった機会は非常に大きな励みとなり、自身のアイデアや努力には価値があるのだという確信をより強めてくれます。
また、今はまさに探究の可能性が大きく広がっている時期であるとも感じています。まだ解明すべきこと、調べるべきこと、理解を深めるべきことが数多く存在しており、自分の専門分野において卓越した業績を築いてこられた研究者の方々の仕事に触れることは、謙虚な気持ちを抱かせると同時に、大きな刺激にもなっています。先人の成果は、自身の研究をさらに深化させたいという意欲を高めるだけでなく、将来この分野に進む次世代の研究者を鼓舞できるような貢献をしたいという思いも強くしてくれます。
