研究者として「満たされた人生」をめざすには?
個人の目標と仕事の目標をどう両立させるか
突然ですが、あなたは休日に働くことについてどう感じますか?
私にとって週末は神聖な時間です。平日に夜遅くまで仕事をしてでも、週末はメールや会議のない時間にしたいと思っています。
このように、人それぞれに大切にしたいことや優先順位があります。そしてそれが、キャリアや私生活の選択に影響していくのです。
研究職はハードワークが当たり前
研究の世界は、ストレスが多くハードです。
助成金申請、学会発表、実験、論文の修正、調査、さらには家事や育児。まるで底なし沼にいるように感じる日もあるでしょう。
こうした中で「自分の人生の目標」と「仕事の目標」をうまく調和させることは、特にキャリア初期の研究者にとって大きな課題です。
ゴールがずれていると、満たされない気持ちに
私生活と仕事の目標が噛み合っていないと、満足感が得られず、放っておくと心身の不調にもつながりかねません。
一方、自分の選んだ方向に向かって努力できていると感じられるとき、人は幸福感や充実感を得やすくなります。
では、どうすれば私生活と仕事のバランスが取れるのでしょうか?
ここでは、いくつかの実践的なヒントをご紹介します。
1. 私生活の目標も大切にする
多くの人が、仕事の成功を優先して、私生活の目標を後回しにしがちです。
でも、子どもが欲しい、結婚したい、家を買いたい、いつか行きたい国を訪れたい…そんな夢も、先延ばしにせず計画に入れておきましょう。
目標を意識することで、仕事の選択にもよい影響を与えます。
分子生物学研究者のVicky Howeさんは、「博士号を取ってから子どもを持とう」と考えていましたが、途中で考え直し、博士課程中に結婚・出産を経験しました。「家族と仕事の両立は大変だったけど、なんとかやってこれた」と語っています。
2. 自分の優先順位をはっきりさせる
研究の世界は競争が激しく、キャリアアップのために多くの選択を迫られます。
ですが、勤務地の移動や夜勤、生活環境の変化が本当に自分に合っているかどうか、よく考えることが大切です。
免疫学やワクチン研究の経験が豊富なShivanee Shahさんは、博士号取得後、有名大学のポスドクのチャンスがありましたが、夫と離れて暮らすことに不安があり、転職を見送りました。
「何を大切にするか」が、長期的な満足度に大きく関わるのです。
3. 金銭面の備えは「選択の自由」になる
家族や自分のために一時的に仕事を休む必要が出てきたとき、貯金があれば柔軟に対応できます。
逆に、金銭的な不安があると、大事な決断を先送りしたり、我慢を重ねることに。
お金の悩みは、ストレスや不満につながる大きな要因です。
だからこそ、早いうちから資金計画を立て、安心できる「選択の余地」をつくっておきましょう。
4. サポート体制を整える
頼れる人や環境があると、仕事も生活もぐっと楽になります。
家事代行サービスや保育施設の利用も視野に入れてみましょう。職場でも家でも、相談できる相手がいることは大きな支えになります。
米・デモイン大学のRachel Dunn准教授は、博士課程を乗り越えるうえで、同僚Elaine Gregersenさん(法学の准教授)の存在が大きかったと振り返ります。
「博士課程を一人で乗り切るのは無理。支えてくれる人が必要」と語っています。
5. 自分の「困りごと」を言葉にする勇気を
多くの研究者が、プライベートな事情を上司に話すのをためらいます。
でも、実際には多くの人が高いストレスにさらされ、生活と仕事のバランスに苦しんでいます。
無理を続けて燃え尽きる前に、信頼できる同僚や上司に相談してみましょう。
インド・プネーで研究室を運営するKarishma Kaushik准教授は、家庭と仕事の両立を意識して行動することで、研究への意欲が高まったと言います。
「私生活のことを共有することで、同僚との信頼関係も深まりました」
「仕事か私生活か」ではなく、どちらも大切に
仕事と人生、どちらの目標も叶えるには、自分が「何を望んでいるのか」を知ることが第一歩です。
将来の自分を想像しながら、優先したいことを見つめ直してみてください。
バランスの取れた人生こそが、心からの満足感につながります。
ケンブリッジ大学病院の外科医Kourosh Saeb-Parsyさんの言葉が、その本質を語っています。
「家族を犠牲にしてキャリアを築く時代はもう終わり。私は学生たちに“両方を目指そう”と伝えています」
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。