AIの“ハルシネーション”が不安?研究者が今日から実践できる対策(T.R.U.S.T.フレームワーク)

How to Avoid AI Hallucinations in Your Research Writing

学術論文の生産量は年々増え、文献探索から草稿作成までAIの支援を受けるのが当たり前になりました。便利さの反面、見過ごせないのがハルシネーション——もっともらしい口調で事実と異なる内容を自信満々に出力してしまう現象です。Lancaster University の Emmanuel Tsekleves 教授を迎えた Paperpal AI Exchange では、「なぜ起きるのか」「どう防ぐのか」を実務目線で整理しました。本稿はそのエッセンスを解説するガイドです。

セミナー実施言語:英語

目次

ハルシネーションとは何か——“誤りなのに説得力がある”危うさ

ハルシネーションは、架空の引用誤った統計意味がずれる言い換えとして現れます。たとえば、存在しない論文をそれらしい書誌情報で提示したり、ヒトの遺伝子数を“10万”と断言したり、微妙な言い換えで研究結果のニュアンスを逆転させてしまうケースです。

怖いのは、読み手の注意をすり抜けるほど文体が自然な点。研究不正の疑義や論文撤回、キャリアへの打撃につながり、信頼の回復には膨大な時間がかかります。教授の言葉を借りれば、信用は年単位で積み上げ、数分で崩れるのです。

5つの原則:T.R.U.S.T.フレームワーク

Tsekleves 教授が提案するのは、日々の執筆フローに無理なく組み込めるT.R.U.S.T.。各ステップで“研究者としての主導権”を取り戻します。

T:Treat AI as an assistant, not an authority

AIは権威ではなく“優秀な助手”。キーワードの洗い出し、関連研究のあたり付け、章立ての草案づくりには力を発揮します。ただし、採用する情報の妥当性を最終判断するのは研究者

実践のコツ:AIから提案された論点や引用は、すぐ採用せず「裏取りタスク」に回す。参考文献リストは“下書き”扱いで、後から一つずつ検証する前提に。

R:Rely on verification, not assumption

“それっぽい”数字や主張ほど危険です。一次情報に戻って、統計の定義、対象集団、測定条件、信頼区間、限定事項まで確認しましょう。

実践のコツ:草稿段階で検証チェックリスト(統計値/対象/期間/サンプルサイズ/p値/出典)を差し込み、本文から原著PDFへの往復動線を作る。

U:Uphold intellectual authorship

AIが得意なのは構成や言い回しの補助。一方で、分析・統合・解釈・結論はあなたにしか書けない領域です。AIの文章を素通しで貼るのではなく、自分の言葉で再構成することで、誤りの温床を断ち切れます。

実践のコツ:段落ごとに「ここで自分は何を主張し、どの証拠で支えるのか」をメモ。AI文は“素材”に留め、ロジックの背骨は自分で立てる。

S:Study and engage deeply with the research

AIの要約は取っ掛かりには有効ですが、読解の代替にはならない。重要論文は図表・方法・限界まで読むことで、要約では見えない前提やバイアスに気づけます。

実践のコツ:AIに「候補20本」を出してもらったら、インパクト×関連度で上位5–7本を精読。図表へ直接あたり、要約と突き合わせる。

T:Track subtle hallucinations

ハルシネーションは派手な誤りだけではありません。サンプルサイズの齟齬、p値の小数点違い、概念の入れ替え、断定的すぎる解釈など、“微小なズレ”が最終結論を歪めます。

実践のコツ:提出前に「数値・日付・著者名・専門用語のスポットチェック」を実施。共同研究なら相互レビューで二重化し、見落としを減らす。

Paperpalで強化するハルシネーション対策

リサーチ&引用 (Cite Text):本物の引用だけを引く

2.5億件超の信頼できる論文コーパスから、実在する引用をコンテキストに沿って提示。候補をクリック→原著へジャンプ→本文の該当箇所まで追えるので、確認の手間が一気に短縮します。

PDFとChat (Chat PDF):質問で深掘り、メモで知識を固定

PDFに直接質問して精度の高い回答を得ながら、引用箇所と一緒にノート化。要約の鵜呑みではなく、原文との往復を前提にした作りです。

AIレビュー (AI Review):論理・構成の“ほつれ”を可視化

冗長な箇所や論理の飛躍、段落のつながり不足を検知し、具体的な修正提案を提示。ハルシネーションの温床になりやすい“曖昧表現”や“断定過多”も洗い出します。

AI追跡 (AI Footprint):AI関与を見える化

どの文がAI起点かを文単位で可視化。ドラフトから最終稿まで、自分の思考で上書きできたかを確認し、開示文の作成もスムーズに。

AI利用に関する開示:投稿規定に即した透明性

主要ジャーナルや大学のAI使用開示要件に沿ったテンプレートを同梱。自分のプロジェクト向けに微調整しやすく、審査段階のやり取りを短縮します。

新機能:AI Detector

テキスト内のAI関与の可能性を透明な形で評価。検出“だけ”でなく、解釈と説明責任を支える設計を目指しています。

まとめ——速さと信頼性を両立するために

  • AIは加速装置、舵を取るのは研究者。
  • T.R.U.S.T.をルーチン化し、疑わしい要素は原著で確かめる
  • Paperpalの各機能を“検証のワークフロー”に組み込み、ハルシネーションの発生と流出を同時に抑える。

すぐにできる3ステップ

  1. 進行中の草稿で、AIレビューの提案をもとに修正 → リサーチ&引用で情報の裏づけとなる参考文献を挿入
  2. 主要文献5–7本をPDFとチャットで深掘り→重要図表をメモ化
  3. 提出前にAI レビュー+AI DetectorAI 追跡で関与を確認し、AI利用に関する開示テンプレートで仕上げ

Paperpalは、リアルタイムに言語と文法を修正するための提案を行い、著者がより良い文章をより速く書くことを支援するAIライティングアシスタントです。プロの学術編集者によって強化された何百万もの研究論文に基づいてトレーニングされており、機械的なスピードで人間の精度を提供します。

Paperpal
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この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
今日、エディテージは専門家によるサービスとAIツールの両方を用いて、研究のあらゆる段階で便利に、安心して使っていただける包括的なソリューションを提供しています。

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