エディテージ・グラント2025大賞を受賞-森田 紀帆さんにインタビュー

エディテージ・グラント2025にて大賞を受賞した森田 紀帆さんに、大賞を受賞した喜びやご自身の研究について、グラントに応募して感じたことなどを語っていただきました。

森田 紀帆さんプロフィール
Kiho Morita

2025年3月 筑波大学大学院 国際公共政策学位プログラム 博士前期課程修了
2025年4月 株式会社三菱総合研究所に勤務
仕事では主にヘルスケアに関する調査研究に携わっている。自身の研究では、口唇口蓋裂の当事者と家族の経験を社会学の視点から分析しており、現在はその研究をもとに書籍『自分の顔はどこにあるのか―口唇口蓋裂当事者と家族の社会学(仮)』(青弓社、刊行予定)の執筆を進めています。

コミュニケーションが好きで、常に誰かと話していたいと思っているほどおしゃべりで社交的な性格。研究や仕事をしながら、人の話を聞くことも好きで、さまざまな人の経験や語りに触れる時間を大切にしている。趣味は古墳巡りと漫画。関東の古墳はだいたい巡ってしまい、森を見ると「ここに古墳があるのではないか?」と何となく推測できるようになるほど。

Kiho Morita

受賞した研究内容について

口唇口蓋裂という先天性疾患をめぐり、当事者・家族・医療者それぞれが「治療」をどのように理解しているのかを、インタビュー調査を通じて明らかにする研究です。
医療の中では「治る疾患」と説明されることが多い一方で、当事者の多くは術後も長くその経験と向き合い続け、「治らない」ととらえる方も一定数いらっしゃいます。こうした認識のズレを丁寧に可視化することで、医療と社会のあいだにある理解のギャップを学術的に捉え、数字では出てこない痛みや対処の方法を分析しています。

エディテージ・グラント2025大賞を受賞して

この度は大賞をいただき、ありがとうございます。大賞という形で研究を評価していただけたことをとても嬉しく思っています。
私の研究は、口唇口蓋裂という医療的には「治る」と言われながらも、当事者は身体の治癒とは別に、差別や偏見といった長く困難な経験と向き合っているという現実に光を当てようとするものです。これまで社会の中で十分に語られてこなかった経験に目を向けた研究を評価していただけたことは、大きな励みになりました。
また、自分の研究が誰の役に立つのだろうか、これは本当に研究と呼べるのだろうか、と迷ったことも長くありました。しかし、エッセイの執筆や面接、セレモニーを通じて、さまざまな研究者の方々や研究を支えておられる方々とお話しする中で、自分の研究の意義を改めて感じることができ、大きな自信につながりました。このような機会をいただけたことに、関係者の皆様へ心より感謝申し上げます。

ご自身の研究について

口唇口蓋裂について当事者や家族、医療者へのインタビュー調査を行い、その語りを質的に分析する研究を行っています。また、研究成果を学術論文だけでなく書籍などの形でも社会に届けることを大切にしています。

私自身がこの疾患の当事者であることが、この研究の出発点です。生まれてから20年以上治療を受けてきましたが、医療的には「治る」とされている疾患でも、当事者としてはそう感じられない経験が多々ありました。
大学で研究をしようと決める前までは、疾患を治す過程で残った顔の手術痕に対する悩みが大きく、人生の大半がこの疾患に占められていたように思います。それまでの人生を支配するほどつらい経験でもありました。そのため、医療では「治る=悩みが終わること」のように見えることに違和感を抱くようになりました。
その違和感から、「治るとはどういうことなのか」「医療と当事者の経験のあいだにはどのようなズレがあるのか」を考えるようになりました。現在は、同じ苦しみを持つ当事者に話を聞きながら、口唇口蓋裂を病むということは一体どのような経験なのかを模索しています。

今後も引き続き、当事者と家族、医療従事者の語りに寄り添い、数字では見えてこない関係者の処世術や痛みに向き合い続けたいと考えています。
一般的に医療とは、悪いものを取り除き、元に戻すことを目指す営みです。しかし口唇口蓋裂は、生まれながらにして「裂けた顔」であるため、「私」という存在の一部である顔が「治さなければならないもの」として扱われることに、根源的な痛みや自己否定感が生まれることがあります。
その顔を何度も「治す」手術を受けることは医療的な恩恵であると同時に、「自分の顔ではなくなる」ような経験にもつながり得ます。顔を変えていくということが当事者や医療をどのように揺り動かすのか、ルッキズムや性差といった視点にも注目しながら、研究を続けていきたいと考えています。

エディテージ・グラントに応募した理由

エディテージ・グラントに応募したきっかけは、修士論文を基にした書籍出版の準備を進める中で、このグラントがあることを見つけたことです。グラントに問い合わせたところ、応募条件に合えば民間企業の社員でも応募できるとのことで、大学ではなく企業に勤務している身としても応募可能であることがわかり、大変助かりました。

なぜ応募しようと思ったかというと、口唇口蓋裂に関する修士論文をもとに、単行本を出版したいと考えていたためです。資金の用途が比較的自由であったこともあり、自分の計画に合っていると感じました。また、申請書がエッセイ形式だった点も自分には合っていました。修士課程を修了したばかりで他の研究者と比べ実績が多くない中、若手研究者を支援する取り組みである点にも魅力を感じました。研究内容だけでなく、その背景にある問題意識や研究者自身の思いを重視していた点も非常に印象的でした。

グラントへの応募にあたり、苦労したことや工夫したこと

研究の専門性を保ちながら、その意義を分かりやすく伝え、エッセイの形にまとめることに苦労しました。また、大きな金額の助成をいただく可能性があるため、今後5年から10年で何をしたいのか、何を目指したいのかを具体的に書く必要がありました。研究実績がまだ少ない中で、私はこの研究を今後どのように社会の中で位置づけていきたいのかを、改めて深く見直す機会にもなりました。
目の前の研究だけでなく、この研究が社会のどこに役立つのか、誰のためにあるのかを考えながら、専門分野以外の方にも伝わる言葉を選ぶよう工夫しました。
同時に、書きたいことや研究への熱意をしっかり書くことも重要だったと思います。

エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと

他の助成金プログラムでは、助成金の使用用途が限定されていたり、細かな制約のもとで使用する必要があることが多いのですが、エディテージ・グラントはそのような制限が比較的少なく、本の出版を考えていた私にとっては大きな助けになりました。応募書類も、科研費のような形式の書類を書いたことがなかったため、エッセイ形式で書けたことはむしろ良かったと思います。また、エディテージは英文校閲ツールとして院生時代から知っていたこともあり、助成金だけでなく入賞者への英文校正支援がある点にも魅力を感じて応募しました。

印象的だったのは、最初から最後まで手厚くサポートしていただいたことです。応募の要件がエッセイ形式であったことや、若手研究者を対象にしている点も含めて、研究者を温かく応援してくださる雰囲気を感じました。応募からセレモニーまで、研究を続けていく大きな励みになる機会でした。

普段、若手研究者として感じていること

資金獲得や実績を積んでいくことなど、研究を続ける環境の厳しさを感じることもあります。一方で、新しい問いを自由に探究できる時期でもあると感じています。経験を積みながら研究を続け、多くの人との対話を通して研究を深めていきたいと思っています。

また、セレモニーを通じて多くの研究者の方々と出会い、再び大学などの研究機関に所属して研究を続けていくことについても、改めて考え始めるきっかけとなり、大きな刺激を受けました。

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この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
今日、エディテージは専門家によるサービスとAIツールの両方を用いて、研究のあらゆる段階で便利に、安心して使っていただける包括的なソリューションを提供しています。