「心不全という疾病には、海外と歩調を合わせた研究が不可欠」白石泰之先生(慶應義塾大学医学部 循環器内科学 助教)

慶應義塾大学の白石泰之先生にお話を伺いました。心不全を主な専門に、循環器領域の臨床研究をされています。エディテージの英文校正サービスをどのように活用されているか、また患者様が多様で不均一な高齢者医療の難しさや日本の臨床研究の課題などについてお話いただきました。

※聞き手:近田レイラ(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)インタビュー実施日: 2018年9月10日
(以下、本文敬称略/肩書、ご所属はインタビュー当時のものです)
目次

リアルワールド・データベースを使った、循環器領域の臨床研究を専門にしています。

――― まずは先生の専門の研究分野とご経歴について教えてください。

(白石) 私の専門とする臨床研究のスタイルは、大規模なデータベースなどを使った循環器領域の臨床研究になります。臨床研究の手法や考え方は基礎研究とはまた違ったノウハウが必要なので、大学院ではその辺りを実務を踏まえながら学んできました。最初にエディテージさんにお世話になったのも2013年、ちょうど大学院に入ったタイミングです。そのときは本当にたまたま、同じ研究グループの誰かがエディテージさんを使っていたので、自分もお願いさせてもらいました。大学院に4年間通い、2017年に卒業と同時に学位を取得し、大学院卒業後は慶應義塾大学病院で循環器内科の病棟及び外来診療をしながら研究も続けております。

――― 循環器内科を志望したきっかけを教えてください。

(白石) 循環器内科の高い専門性と幅広い活動領域、あとはやはり、本当に致死的な患者が多い中、そういった方の命を救うことができるところにやりがいと魅力を感じたというのが1番の理由ですね。

――― 最近の論文のテーマを教えていただけますか?

(白石) 私自身がファーストオーサーやセカンドオーサーで書いているのはほとんど心不全関連の論文です。心不全って、狭心症や心筋梗塞などとは違って、いわゆる状態を表していて特殊な病名ではないんですね。全ての循環器疾患が最終的に心臓に機能異常を起こして「心不全」を発症しうるということなので、そういう意味ではかなり広い学問ということになります。最近の日本は、高齢化を超えた超高齢化社会に突入しており、狭心症や心筋梗塞、不整脈、弁膜症といった循環器疾患を複数お持ちで、なおかつほかの疾患、例えば腎臓が悪いとか癌を持っているとか、併存疾患を多くお持ちの方がどんどん増えています。心不全患者の予後はある種の癌と同じくらい悪く、さらに入退院を繰り返す疾患であり、医療費の高騰が大きな問題です。高齢者の再入院を含めて、効果的かつ効率的な医療を展開していくためには何が必要なのか、日々頭を悩ませています。

――― 心不全の中でも特に取り組んでいる研究テーマはありますか?

(白石) 心不全っていうのは、増悪を繰り返しながら徐々に落ちていく、慢性進行性の疾患です。経過中に急に増悪したときが急性心不全で、ある程度持ち直して比較的安定した時期を慢性心不全って呼んでいます。慢性心不全の治療方法はどんどん新しい治療法が考案されていますが、特に、キュって悪くなった急性心不全のときにどういった治療をすればその患者さんの心臓の機能を低下させずに元に戻せるのかっていうところが、今はほとんどエビデンスがない状況です。そこに関してはここ20年くらい大規模な研究が行われているのですが、残念ながらポジティブな結果はほとんど出てないので、私としては急性期のまさに落ちていくところを、短期的な死亡率はもちろん、長期的にもどのくらいまでよくできるかという視点に立って日々研究をしています。

――― 急性、慢性に限らず心不全になる方はやはり高齢者の方が多いのでしょうか?

(白石) 多いですね。それは一般健常人のいわゆる疫学研究からも分かっていて、心不全の発症率は年齢が上がるごとにどんどん上がっていきます。

――― そうなるとやはり合併症もあって、まっさらなデータをとるのが難しいのでしょうか。

(白石) そうですね。心不全の領域を表すキーワードの1つが不均一性(Heterogeneity)といって、本当にバラバラなんですよね。特化した病態に対しての治療っていうのは当てはめやすいんですよね。例えば、この癌の遺伝子があればこの抗癌剤が効くというような。ただ心不全の患者さんは多様で不均一なので、one-size-fits-allな治療はやはり難しいです。そういう中でもより効果的な治療戦略を生み出すために、なんとかしてその不均一なものを病態や併存疾患によっていくつかのグループに分けて、このグループの心不全患者にはこういう治療が効くといった細分化が必要になっています。残念ながら、それもなかなかまだ難しいところはありますが。

海外と日本には、臨床研究が育まれてきた背景の違いがあります。

――― 先生が論文を投稿されるジャーナルは海外誌が多いですか?

(白石) はい。心不全って、日本だけでなく、実際今世界的に問題になっている疾病なので、世界と一緒に歩調を合わせながら研究をやっていく上では、海外誌に出してその道の専門家や同業者たちとコミュニケーションをとっていく必要がありますね。やはりハイインパクトファクターのジャーナルに出すのは非常に大事なことだと思っているので、まずはそういったジャーナルにチャレンジすることは意識しています。

――― 海外でも特に心不全の研究が進んでる国はございますか?

(白石) アメリカは進んでいますね。国としての医療政策もそうですが、やはり人を対象とする研究をしやすい土壌になっているので、どんどん新しいチャレンジングなことをやってきます。ただ最近、ヨーロッパの場合は1つの国というよりもEU全体でコラボレーションして研究をされていて、患者数ではもしかするとアメリカを凌駕するような人数にもなるので、アメリカに比肩する大きな研究が多数報告されています。

――― 人を対象とする臨床研究といった点で、日本はまだ遅れをとっているのでしょうか。

(白石) 日本は、基礎研究の分野では昔から世界をリードして、ノーベル賞など数多くの栄誉ある賞にも選ばれ、世界でも一目置かれているところですけれど、臨床研究となってしまうとまだ基礎研究のレベルには及ばない状況だと思います。現在の日本の医療制度あるいは研究倫理規定は、ある部分でなかなか臨床研究をやりづらくしてしまっていますし、臨床研究のインフラも海外と比較してしまうと見劣りしますし、現場の医師へのサポートが少なく、その中で臨床研究をするのは難しい状況ではないかと感じています。率直に、日本が欧米の臨床研究に大きな意味で追いつく姿はまだちょっと想像しにくいですね。

――― 臨床の現場でも、そういった難しさを感じる場面はありますか?

(白石) いえ、臨床の面では特にそういう類の難しさは感じません。私は医者になって11年目ですが、研修医のときの当時の標準治療と、現在の標準治療はだいぶかけ離れてるというか、進んだところがありますし、循環器内科の領域は新しい治療選択肢が年単位で出てくるので、できることがどんどん増えてきています。ただ、それがゆえに、そのできることを「的確」に使うことが難しい状況なんですね。仮に若い方であれば、持てうる医療をすべて使って全力で救命するというのも分かりますが、われわれの領域は高齢者の方がかなりの割合を占めています。例えば、90歳で悪い状態の方にどこまで最先端の治療を行うのかについては、常日頃、葛藤を見せます。「このまま安らかに逝かせてくれないか」とおっしゃる方もいますし、認知症で自分に何が起こっているかも理解できない方もいます。仮に最先端の治療を施したとしても、1~2年後には別の疾患で他界されてしまうかもしれないし、治療してもしなくても結果としては同じくらいの寿命が見込めたかもしれない。無理に治療・手術のリスクを負う必要もなかったわけです。現在の循環器疾患含めて高齢者の医療の抱える難しい部分だと思います。医療が進みすぎるのも問題ですね(苦笑)。
そういう疑問に答えるために臨床試験などを行うわけですが、余命短い高齢者のためだけに高いお金を払って臨床試験を行うのはやはり抵抗があるわけです。決してお年寄を大切にしていないわけではないですよ。それよりも、より若い生産性のある年代を対象に試験をするのが合理的だと普通は思うのではないでしょうか。そうなると、高齢者の医療が進みませんよね。それでは困るので、既存のリアルワールド・データベース、保険の請求データとか医療デバイスや手術のデータなどを集めて、われわれが今やっていることが正しいのか、間違っているのか、それに最適な患者に最適な治療が提供できているのか、そういうところを丁寧に見ていくのが、特にこの高齢者医療にとっては非常に大事なことだと感じております。

第三者に読んでもらうことで自分の頭も本当にクリアになって、論文に何が足りないのかがよく分かります。

――― 白石先生はスタンダード英文校正も頻繁にお使いいただいておりますね。

(白石) 基本的にはプレミアム英文校正でお願いしていますが、研究によっては海外の共著者と一緒に執筆する論文もあり、その際は彼らに送る前にスタンダード英文校正を使って1回ちゃんとした英語に整えるという使い方もしています。

――― そういった場合はスタンダード英文校正のみで問題ございませんか。

(白石) はい。初めのころは自分の書く英語も稚拙でしたし、ノウハウも分からなかったので、プレミアム英文校正を使って何度も何度も書き直して見てもらっていました。自分の勉強にもなりますし、論文の質自体もグンッと上がるので、今でもそのプロセスが必要だと思うときはプレミアム英文校正でお願いしています。まあ、大体必要なことが多いですけど(笑)。ただ、だんだん慣れてくると、研究内容によってはその分野にかなり自分が詳しくなっていて、その分野の英文を何回も書いてきていますので、その場合はスタンダード英文校正で1回だけお願いすることもあります。

――― プレミアム英文校正のどこに1番メリットを感じていただいていますか?

(白石) やはり何度でも再校正をしていただけるところが、大きなメリットだと思います。特にメジャー・ジャーナルに出す場合には、内容を練っていく必要がありますので、私の場合はまずぱっと書いて、フォーマッティングを見て、何回か自分で校正をしたらすぐにエディテージさんにお願いしてしまうことがあります。自分の中でまだ固まっていなくて「もやっ」としていた文章が、第三者の目を通すことで「これは意味が分からない」という指摘を受けることも多いですし、それにすごく洗練された、分かりやすい英語で返ってきます。そうすると自分の頭も本当にクリアになって、自分の書いたものに何が足りないのかがよく分かるので、論文を練っていくっていう点で非常に有用だと感じています。

――― ありがとうございます。ほかにこういったオプションやサービスがあれば、というご要望はございますか?

(白石) ぱっと思いつかないんですが(笑)、フォーマット・査読・再校正、これが無制限というだけでも、英語を母国語としない日本人にとっては、論文執筆に対するハードルはかなり下がると思います。時間も節約できますし、きれいな英語になりますし、なおかつカバーレターも書いていただける。日本人が躓いてしまうようなところを、全てエディテージさんにサポートしていただけるので心強いです。

――― ありがとうございます。

循環器領域を引っ張っている海外で、日本では体験できない臨床研究の経験を積みたいという目標もあります。

――― 今後のキャリアや研究の目標についてお話いただけますか。

(白石) 研究を始めてまだ5年ほどで、未熟な部分ばかりですので、ありきたりな言葉になってしまいますが、もっと様々なことに触れたいという思いがあります。日本にいてはチャンスがないことも多いので、ぜひ国外に出て経験を積む機会を作りたいですね。もちろん研究以外の部分でも、ほかの文化に長いこと触れて生活するというのも自分の視野を広げる意味で重要だと思っています。

――― 具体的に行きたい国はありますか?

(白石) 先ほども申し上げたように、アメリカないしはヨーロッパが世界の循環器診療を牽引していますので、いずれかに行きたいと思っています。それに留学を考えるタイミングでしょうか、その時に自分が何をしたいのかっていうのとマッチする国に行きたいなとは考えています。

――― ありがとうございます。海外の学会などにも参加されてますか?

(白石) はい。海外の学会は定期的に年1~2回くらい出るようにしています。もちろん、国内学会は海外学会よりもたくさん参加しております。研究を続けていると、自分がやっていることを公の場で発表することは重要ですし、ほかにどのような研究が行われているかを知るのも非常に大事なことですので、そういう意味でも極力参加するようにはしています。

――― 弊社も学会には時々ブースを出しておりますので、ぜひお立ち寄りください。 最後に、今大学にいらっしゃって、臨床、研究、教育とを両立する上で、大事にしていることがありましたら教えてください。

(白石) 大事にしていることは、あんまり自宅で仕事をしないということですね。上記の臨床・研究・教育のすべてを完璧にこなそうとすると家族との時間が犠牲になってしまうので、そこはある程度割り切って自宅に帰ったら仕事はしないというように。他の先生方も同じだと思いますが、できるだけ効率的に仕事をすることも心掛けています。自分以外のところでもサポートを得てできることがあれば、そちらに頼ることも状況によっては積極的に考えています。

――― まさにそのためにエディテージがおりますので。

(白石) まさにそうですね。ぜひよろしくお願いします。

――― 今後ともよろしくお願いいたします。

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この記事を書いた人

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