研究者であれば、論文発表のプロセスで少なくとも一度は次のような言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
「研究論文は事実と成果のみを発表すべき。ストーリーで読者を楽しませる必要はない!」。
では、こう言い換えてみてはどうでしょうか?
「研究論文は、ストーリーを語りながら事実と成果を示すべきだ!」。
多くの研究者は、興味深い未解決の問題に懸命に取り組んでいますが、読者を惹きつけるような方法で研究のストーリーを伝えることに苦労しています。研究論文におけるストーリーテリングは軽視されがちですが、実は情報を伝えるうえで非常に効果的な方法なのです。読者の思考を刺激し、情報の定着率を高め、学びを行動に変えるきっかけを生み出すことができます。
ストーリーテリングの科学
ストーリーテリングが研究論文に不可欠である理由は、以下の3つの要素に集約されます。
- 情報を伝える
- 経験を共有する
- 行動を促す
これらの要素が研究論文にどのように適用されるかを見てみましょう。
情報を伝える
当然のことながら、あらゆる研究の目的は、最新の発見を科学コミュニティに伝えることです。ほとんどの研究論文は、この要素を十分にカバーしています。
経験を共有する
多くの著者はここでつまずきます。ほとんどの論文はIMRaD(序論、方法、結果、考察)の構成に従っていますが、それぞれのセクションにストーリーテリングを取り入れるのは容易ではありません。
これをどのように実践できるかの例を挙げてみましょう。
たとえば、気候変動がホッキョクグマに与える影響を研究したいとします。
- 気候パターンの変化に関する統計データを提供する(定量的アプローチ)
- 北極圏の影響を受けるコミュニティにインタビューする(定性的アプローチ)
- 2つを組み合わせた混合的アプローチをとる
どの方法でも、「生息地と個体数が減少している」という膨大な統計データをただ並べるのではなく、1頭のホッキョクグマの旅に焦点を当てるとどうでしょう? 氷の融解がホッキョクグマの住処を破壊し、食習慣に影響を与え、他のクマとの交流に影響を及ぼしている――事実に基づいた調査結果を示しながら、そんなストーリーを描くことで、読者はホッキョクグマのつらい経験に共感し、研究に強く惹きつけられるのです。
行動を促す
すべての研究者は、自分の研究が認められ、引用されることを望んでいます。研究は、次の探求への扉を開き、他の研究者に可能性を探る意欲を与えるものでなければなりません。
そのためには、研究の限界を正直に認め、今後の課題を明示することが大切です。研究の限界を明らかにすることをためらってはいけません。それは研究の弱みではなく、研究者仲間にさらなる研究を追求する好奇心を抱かせるチャンスなのです。
研究におけるストーリーテリングのメリット
ストーリーテリングの要素について理解したところで、それが研究にどのようなメリットをもたらすかについて見てみましょう。
1.自分の意図通りに研究を解釈してもらいやすい
研究を発表する際の最大の難関の1つは、研究成果を誤解なく伝えることです。査読者や読者があなたの意図を理解できなければ、解釈がずれ、混乱を招く可能性があります。
つまり、「自分のストーリーを語らなければ、読者が勝手にストーリーを作ってしまう」ということです。ストーリーテリングにより、研究が自身の意図どおりに解釈してもらえる可能性が高まります。
2.学術的成功の可能性が高まる
ジャーナル編集者や査読者は、数多くの論文を査読してきた経験を持っています。彼らは、ストーリーのある論文と、単に事実や調査結果を羅列するだけの論文を簡単に見分けることができます。そのため、論文が他の論文と比べて際立つようなインパクトを与える必要があるのです。
ストーリー性の高い研究は、他の論文よりも目立ちやすく、掲載や引用の面で有利になります。より多くの研究者があなたの研究を引用することで、あなたは科学コミュニティで広く認知され、その分野の研究を推進する上でより大きな影響力を持つことができます。
3.共同研究の機会が増える
ストーリーテリングは研究者にとって貴重なスキルです。単に論文を執筆するだけでなく、データの整理方法や分析の視点を磨く機会にもなり、あなたを魅力的な研究者にすることができます。
何年もかけてストーリーテリングのテクニックを身につけ、同僚からの評価が高まれば、他の研究者がアイデアを共有したり、あなたと共同研究したりすることを希望する可能性もあり、より多くのチャンスにつながります。
最後に
あなたの研究論文は、単に事実に基づいた研究結果を提供するだけのものではなく、ストーリーを伝えるものでもあります。ストーリーテリングの要点を知った今、ただ論文を書くだけでなく、「研究を語る」ことを心がけてみましょう!