質問を作るのは実は相当難しい〜研究者の思考さくご (20)

質問を作るのは実は相当難しい〜研究者の思考さくご (20)

皆さんはテレビやネット動画などで、記者会見を見ることはあるでしょうか? もしかすると記者の質問がわかりにくかったり、何度も同じことを聞いているように感じたり、意味がないものに感じたりすることがあるかもしれません。なぜそのようなことが起こるのか、連載・研究者の思考さくご第20回では、国立情報学研究所の宇野毅明(うの・たけあき)先生に情報学研究者ならでの視点で、「質問を作るのは実は相当難しい」ということについて考察していただきました。

宇野 毅明
国立情報学研究所(NII) 情報学プリンシプル研究系 教授

アルゴリズム理論、特に列挙・データマイニング・最適化の研究が専門。コンピュータ科学の実社会における最適化に関心を持ち、自治体、企業、多分野の研究者との様々なコラボレーションを行っている。東京・神田にあるサテライト研究ラボ、「神田ラボ」を主催。情報学だけでなく文学、哲学、歴史学など人文社会学系を含めた国内外の研究者が集まり、日々、技術と社会の狭間で起きる現象について議論を重ねている。議論における俯瞰力と問題設定力を鍛える道場、「未来研究トーク」共同主催者。

ウェブサイト

最近ネットで動画が低コストで配信できるようになった影響かと思うのですが、政治問題、スキャンダルや謝罪などの記者会見の様子がネット配信などで見られるようになりました。記者が当事者にいろいろと質問をする、その様子が生で見られるようになり、その映像を見た視聴者から「記者の質問がわかりにくい」「ポジショントークだ」「自分の意見を言っているだけで質問になってない」など、記者の質問の質に関する批判が出てきたように思います。なんでも可視化するのはまあまあいいことだと思うのですが、状況だけ可視化して背景やその意味とか価値とか難しさをきちんと可視化せず、ただただ音声と映像だけが伝わるのは良くないかなと思っています。そこで、今回は「質問を作るのは実は相当難しい」ということを述べたいと思います。

一般に研究者は話を聞いて質問をする機会が多いと思います。だいたいの場合は、すぐに質問したいことが頭に浮かびますし、それを言葉にするのも慣れています。他の研究者の質問を見た感じでも、多くの場合はそんなにおかしくないし、的確です。ときどき“一生懸命節”とでもいいましょうか、自説を長々と披露してしまう人もいますが、まあご愛敬ということで。こういう場合、質問に必要な背景や着眼点をしっかり説明して自分の質問の意図や理由を相手に理解して欲しいのだと思うのですが、いつの間にか自分の話になってしまうのかと思います(もしかすると話の横取りをして自分のものにしたい人もいるかもしれませんが)。

さて、研究者の質問は、卒業論文の発表会での質問や学会での研究発表に対する質問が典型例でしょう。他にも人事面接、研究ファンドの申請や評価での面接、学生に対する勉学や生活指導に関する質問など、実に多様かと思います。ただ、研究者の場合には記者会見と違うところがあり、

  1. 相手の話がある種パターン化されている
    「こういう研究して、こういうことわかった」、「こことここが新規性だ」のように、理解すべきポイントや理解の仕方がとても明確であること
  2. 質問の目的も明確
    「こういうことを理解する必要があるので、理解できていないことを聞く」「他の人は説明しているが、今回説明がなかったポイントを聞く」「自分がこの研究を評価する必要があるから評価ポイントを聞く」など質問の目的も明確であること
  3. 自分と相手の間に大きな敵対関係がなく、専門性もだいたい同じなので、理解が容易。お互いの価値観や目的意識もわかりやすい
  4. 質問項目は、相手が話した内容に対してだけ、つまり質問することの範囲がある程度決まっている、制限されている

などが大きな違いとしてあると思います。

つまり、相手の説明も自分の質問も、ある種のメタなテンプレート(定型)になっているのです。簡単に質問できますが、その代わりある種単調ですし、整っているし、意外性やドラマはあまりありません。いつもの質問の考え方を、今回も繰り返せばいいわけで、一回それができるようになれば、あとはそれほど創造性高く頭を悩ませる必要はないのです。

一方で記者会見の場合、上記の条件はほとんど成り立ちません。しかも、質問に求められるのは、会見で述べられなかったことに対する質問です。話の奥にあること、隠されていること、違う視点や立場からのこと、こういったものを思考で探索し、探し当てて質問しなければなりません。さらに、相手はこちらと敵対していて、なかなか正直にしゃべりませんし、答えをはぐらかす可能性も高いのです。そんな中で、記者会見を聞いて、その場で、この会見で言われなかったこと、本質的なこと、聞かなければいけないこと、そういうことを全部ひっくるめて考え、限られた時間の中で、ほとんどの場合は1回の質問で聞かなければなりません。普通ならひとつひとつ質問してその回答を元に次の質問を考えて、とするところを、最後の一個前までの質問の回答はすべて自分の頭の中で想像して考え、最後の質問だけをする。こうやっていい質問をすることは相当に難しいと言わざるを得ません。かといって感情的、あるいは人格攻撃的な質問や、自己のポジションをアピールするような質問をしていい理由にはもちろんなりませんが。

一般には、抽象的なこと、言葉にしにくいこと、複雑なことなど、難しいことを聞くときには、質問ではなく「インタビューイング」を使うことが多いと思います。1回の質問でアンケートのように聞き出そうとするのは、質問を作る方にしても答える方にしても難しいです。聞き手のほうは「何の目的・意味で質問されているのか」がわからないと、回答や説明がしにくいですし、質問する方は、その目的や意味を全部正確に伝えられるような質問を作るのも難しいものです。何回か質問と回答のやりとりをしないと難しいでしょう。特に何が出てくるかわからず、相手の回答に合わせて次の質問を考えるようなものは、「反構造化インタビュー」という、ちゃんと名前までついた技術になっています。人類学や社会学の分野では、聞き取り調査などで多く使われているようです。筆者も、企業や異分野の人と共働研究をするときには、目的や価値観がすれ違わないようにしっかりとインタビューイングをします。経験値があるので、だいたい的確にできていると思いますが、同席している人からは「難しくてなかなかできるものではない」と見えるようです。こう考えると、研究者が日夜努力して身につけた技術を使って、何回ものやりとりして聞き出すようなことを、記者は会見の場で質問一発で手に入れようとしているのかもしれません。もちろん、社員研修や仕事経験で訓練されているかもしれませんが、それは相当難しいでしょう。

では、どうやって解決するかですが。まず、「会見を行ってから、質問を考える時間を十分にとる」という方法が考えられます。1時間くらい経ってから質問タイムにする方法があるかと思います。また、各社で同じようなことを聞くのは無駄なので、事前に話し合って、ある程度当たり前の質問、みんなが聞きたい質問は、司会者が聞いてまとめて答えてもらう方法があるかと思います。あるいは、各々の会社がそれぞれ「この点を聞く」のように役割分担をする方法もあるかと思います。

つまり、より質の良い質問が出るように会の運営を改良することはけっこうできると思うのです。ただし、各社の手柄、スクープとか、鬼の首を取るとか、そういう意味合いは薄れるかもしれません。それと、会見から質問まで間があると、ニュースの速達性に問題が出るなどの文句もあるかもしれません。そうなると、数時間早くニュースが伝わることが、個人や社会にとってどういう価値を持つものなのか、それは質問の質を犠牲にしてでも手に入れるものなのかどうか、をしっかりと考える必要があるのだろうと思います。


エディテージPLUS
グラフィカルアブストラクト制作サービス
お友達紹介プログラム
よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
今日、エディテージは専門家によるサービスとAIツールの両方を用いて、研究のあらゆる段階で便利に、安心して使っていただける包括的なソリューションを提供しています。