科学研究の出版は、研究ワークフローのほぼすべての側面に人工知能(AI)が導入されたことで変革を遂げました。役職を問わず、著者や研究者は校正、パラフレーズ(言い換え)、引用管理、文献検索、テキスト要約などにAIツールを活用しています。この記事では、AIが研究コミュニケーションにおいてどのように貢献しているのか、そして人間の専門知識が重要となるのはどのような場面かについて見ていきます。
科学出版のプロセス
以下は、科学出版における様々な段階を簡略化したフローチャートです。

Manuscript preparation(論文作成): この段階では、著者は研究データを収集し、実験と分析を行い、対象となるジャーナルのガイドラインに従って作成およびフォーマットされた論文で調査結果を報告します。
Initial submission(初回投稿): 著者は論文をジャーナルに提出します。
Editorial screening(編集審査): ジャーナルの編集長または学術編集者が投稿された論文を審査し、ジャーナルの目的・範囲に合致するかを確認します。また論文がジャーナルのガイドラインに準拠しているかどうかも確認され、要件を満たしていない場合はデスクリジェクトされる可能性があります。
Peer review(査読): 論文は当該分野の専門家である査読者に割り当てられ、研究の独創性、新規性、質、重要性が評価されます。査読者はフィードバックを提供し、論文のアクセプト、修正、またはリジェクトを勧告します。
Revision(修正): 著者は査読者の提案と編集者のフィードバックに基づいて論文を修正します。修正した論文は、査読者のコメントに対する適切な回答と共にジャーナルへ再提出されます。
Acceptance(受理): 論文がジャーナルの基準を満たした場合、掲載が許可されます。この段階では、ジャーナルが組版、校正、校閲を行い、著者には出版前の最終版承認が必要となる場合があります。
Publication(出版): 研究成果がジャーナルに掲載され(印刷版、オンライン版、またはその両方)、読者に公開されます。
AIツールは、このような科学出版のワークフローにおいて、複数の段階で有用な役割を果たします。しかし、研究の価値は、論文を完成させることだけで決まるわけではありません。研究成果をどのように整理し、どのような文脈で、誰に向けて伝えるのかがこれまで以上に重要になっています。その意味で、科学出版は単なる「発表の工程」ではなく、研究コミュニケーションの出発点であり、ここから先の伝え方が研究の社会的インパクトを左右すると言えるでしょう。
研究コミュニケーションにおけるAIの役割
学術ジャーナルに掲載された研究のプロモーション方法はたくさんあります。グラフィカルアブストラクトの作成から、平易な言葉で書かれた要約の作成まで、AIは研究コミュニケーションのプロセスを簡素化することが知られています。
ビジュアルコミュニケーション:BioRenderやMind the GraphのようなAI搭載ツールは、科学的な正確性を保ちながらグラフィカルアブストラクトを作成できることから、研究者の間で広く利用されています。こうしたツールを活用すれば、デザインの専門知識がなくても、研究内容を視覚的にわかりやすく、かつ印象的に伝えるグラフィカルアブストラクトを作成することが可能です。
各ツールには、分子生物学や医学、化学など、多様な研究分野に対応したイラストやアイコンが豊富に用意されており、目的に応じて直感的に組み合わせることができます。さらに、あらかじめ設計されたテンプレートを使うことで、構成に悩むことなく、効率的にグラフィカルアブストラクトを完成させることができます。
平易な言語による要約:専門用語を適切に用いながらも平易にまとめられた要約は、政策立案者や患者、一般の読者が、科学研究の背景や社会的意義を理解するうえで重要な役割を果たします。
HypeWrite AI、Paperpal、GrammarlyといったAIを活用したライティング支援ツールは、このような要約を作成する過程で、著者の思考を整理し、表現を洗練させるための有効な補助となります。さらに、長大な研究論文の要点を文章や箇条書きとして整理することで、読者は研究の全体像と重要な結論を効率よく把握でき、内容への理解をより深めることができます。
翻訳のためのAI:AI翻訳プラットフォームの登場により、世界中の読者と知識を共有することはもはや困難なことではなくなりました。著者は自身の研究成果の認知度を高め、読者は言語の壁を気にすることなく科学的知見に容易にアクセスできるため、著者と読者の双方にメリットをもたらします。
文献検索の簡素化:R Discovery、LitMaps、Research RabbitなどのツールはAIを活用し、公開された科学研究を探索します。学者、学生、研究者がこれらのツールを利用する際に、「論文を音声で聴く」(オーディオ)、「論文を日本語で読む」(翻訳)、「コラボレーション」(共同編集)といった機能を活用することで、研究へのアクセスが極めて便利になります。
しかし、いかなるAIツールも人間の批判的思考能力に取って代わることはできず、これらのツールを扱う際には人間の監視が依然として不可欠です。
科学研究コミュニケーションにおける今後のAIと人間の専門知識
学術コミュニティの多くは、科学研究におけるAIの利用に関して懐疑的な見方を示しており、彼らの意見は完全に間違っているわけではありません。しかし問題はAIの使用そのものではなく、AIの過剰利用とその出力の質や信頼性に疑問を持たずにAIに依存していることにあります。
あるニュースで、AIが生成したネズミのイラストに不釣り合いな大きさの性器が描かれ、誤った説明文が添えられていた事例を覚えている方も多いでしょう1。担当者がAIツールの出力をそのまま受け入れるのではなく、時間をかけて内容を確認していればこの問題は十分に防げたはずです。
また近年、研究論文2に登場した不可解な表現が、数十年前の論文における用語の誤訳に由来していることが明らかになりました。「Vegetative electron microscopy」という明らかに意味をなさない用語は、研究者・著者・査読者のいずれにも長年見過ごされ、誤解を含んだ研究の蓄積を招いてきました。調査の結果、1950年代に発表された2本の論文のデジタルスキャン精度が低く、異なる列にあった「vegetative(栄養的)」と「electron(電子)」が誤って結合されたことが原因だったと判明しています。その後、この誤った用語はGPTモデルによって複数言語へ翻訳され、AIを確認なしに用いることの危うさを象徴する例となりました。
さらにAIツールが著者情報や引用文献3を事実であるかのように生成し、実在しない論文を引用してしまうケースも報告されています。これは、AIが常に何らかの回答を返すよう設計されており、十分な情報がない場合でも、もっともらしい内容を作り出してしまうためです。
AIの限界を浮き彫りにしたこうした誤りは数多く存在します。だからこそ業界の専門家は常に、適切な人間の監視のもとでツールを慎重に使用するよう推奨しているのです。AIツールの使用において、人間の専門知識が介入すべき箇所がどこなのか疑問に思うかもしれませんが、答えはいたって簡単です。あらゆる場所で必要なのです。
- AIツールの開発者は、大規模言語モデル(LLM)に提供される情報が正確であることを保証する必要があります。さらに、虚偽や存在しない情報の生成を避けるため、AIツールの設定とデータ学習を注意深く監視しなければなりません。
- AI搭載プラットフォームを管理する企業や組織は、ソフトウェアのタイムリーな更新を重視し、バックエンドのバグを継続的に排除すべきです。
- ユーザーは科学研究にAIツールを使用する前に、適切な情報源から情報を引き出せるようトレーニングが必要です。例えば、明確で簡潔かつ効果的なプロンプトを作成するスキルは将来的に役立つでしょう。
- 科学研究者は、「AIが生成した情報の信頼性を疑問視する」ことに取り組まなければなりません。研究論文で発表する前には、必ず情報源の信憑性を検証しましょう。
まとめ
AIツールは、研究ワークフローに適切に組み込めば、研究者を力強く支える有能なアシスタントとなります。しかし、その役割はあくまで「補助」にとどまります。だからこそ、これからの科学研究コミュニケーションに求められるのは、AIに任せきりにすることではなく人間の判断力とAIの効率性を調和させたバランスの取れた活用なのです。
参考文献
- Study featuring AI-generated giant rat penis retracted
https://www.vice.com/en/article/ai-midjourney-rat-penis-study-retracted-frontiers/ - A strange phrase keeps turning up in scientific papers, but why
https://www.sciencealert.com/a-strange-phrase-keeps-turning-up-in-scientific-papers-but-why - Formatting with AI may be riskier than you realize
https://www.cliffedekkerhofmeyr.com/en/news/publications/2025/Practice/Knowledge-Management/knowledge-management-alert-20-june-formatting-with-ai-may-be-riskier-than-you-realise
この記事はEditage Insights 英語版に掲載されていた記事の翻訳です。Editage Insights ではこの他にも学術研究と学術出版に関する膨大な無料リソースを提供していますのでこちらもぜひご覧ください。

