研究論文といえば、事実や結果を淡々と伝えるものと一般的には考えられています。そこにストーリー立てて伝える「ストーリーテリング」の要素を取り入れることができるなんて、と意外に思う方もいるかもしれません。でも実は、ストーリーテリングのテクニックをうまく取り入れた論文は、読者に強い印象を残し、メッセージをより伝えやすくしているのです。この記事では、研究論文にストーリーテリングを取り入れるための実践的なヒントやテクニックを紹介します。
ストーリーテリングのコツとテクニック
1. 人間味を加える
読み手が文章に共感しやすくなるためには、感情や人間らしさの要素が必要です。ブログなどでは簡単に感情を込められますが、論文ではどうすればよいでしょうか?
・読者が共感しやすい身近な例や経験を挙げる
たとえば、原子力発電所の安全性に関する新しい手法について論じる場合、研究の目的を直接説明することから始めてはいけません。まず過去の事故の事例に触れて、人々に与えた影響を簡潔に紹介すると効果的です。その上で、自分たちの研究がどのようにそのリスクを減らせるかを説明します。
・課題を「見える化」する
問題を特定する際には、それがなぜ重大なのか、どのように対処することが重要なのかを、読者が鮮明にイメージできるように提示します。たとえば、教育分野に大きなギャップがあり、それが生徒の学習プロセスに影響を与えていることを示したい場合、どんな困難があるのか、何がその解決につながるのかを具体的に描写します。抽象的な説明よりも、実感できる描写が読者の理解を助けます。
2. ストーリーに「動き」と「ペーシング」を
ストーリーには、動きとペーシングが大切です。論文でも、動きがストーリーを前進させるのに対して、ペーシングはストーリーの展開速度を決めます。これを科学的なストーリーテリングにどのように取り入れることができるか紹介します。
・動作を説明するときにはより明確な表現を使う
ここの「明確な表現」とは、語られる内容をより強調し、物語に重みを持たせるための動詞です。たとえば「The research was done in a laboratory setting.」ではなく、「The research was conducted in a laboratory setting.」のようにdoよりもより具体的なconductを用いたり、「We administered the questionnaire and recorded the participants’ responses」ではなく、「We distributed the questionnaire to the study participants and their answers were noted.」とよりどのような作業を行ったかを明確に記述したりします。
・「行きつ戻りつ」の構成
まず広い視点で課題を提示し、そこから具体例に進みます。その後、また別の視点に戻り、次の具体例へ……というように、内容を掘り下げていきます。
・文や段落の長さを変える
長い説明が続くと読みにくくなります。短い文と長い文を混ぜる、段落を適度に分けるなど、読者がリズムよく読める工夫をしましょう。特に「方法」や「結果」のセクションでは、見出しを使って小分けにすると親切です。
・類義語を適度に使い分ける
「investigate」「analyze」「examine」「observe」などの言葉を使い分けることで、単調なトーンを避けられます。ただし、専門用語の言い換えは混乱を招くので避けましょう。
3. 会話調を保つ
あなたが誰かに研究内容を直接説明するなら、講義をするのではなく、自然な会話調になるはずです。その感覚を、論文にも反映させてみましょう。
・一人称や二人称を使う(ジャーナルが許す場合)
ジャーナルの投稿規定に問題がなければ、「we」や「our」、「you」などの人称代名詞を使うことで、読者との距離を縮められます。
・情報の出所に人や組織名を明記する
過去に報告された知見を述べる場合は、抽象的な概念ではなく、著者名や組織名を使いましょう。たとえば、「Evolution theory says…」よりも「Darwin reported that…」とするほうが、より具体的で説得力があります。
・受動態だけに頼らない
学術的な文章では受動態が推奨されがちですが、ところどころ能動態を入れることで、会話調を保つことができます。たとえば、「The data was collected from the following databases.」 ではなく、「We collected the data from the following databases.」のように書くと、誰が行ったのかが明確になり、読み手の理解が深まります。
まとめ
以上のヒントで、説得力のある研究論文を執筆するのに役立つ、強力なストーリーテリングのテクニックが身につきました。これらのテクニックを駆使して、科学的な客観性を保ちつつ、基本的なストーリーテリングの構成に沿った論文を書き上げましょう!