エディテージ・グラント2024にて次点に入賞した笠井 智香さんに、入賞した喜びやご自身の研究について、グラントに応募して感じたことなどを語っていただきました。
笠井 智香さんプロフィール
Satoka Kasai
2010 年 京都大学大学院 薬学研究科生命薬科学専攻 修士課程 修了
同年 藤本製薬株式会社 創薬研究所研究員
’17 年 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 精神薬理研究部
同年~ ’22 年 株式会社LTT バイオファーマ 湘南研究所 主任研究員
’18 年 昭和薬科大学 博士(薬学)取得
’22 年 東京理科大学 薬学部 助教
休みの日はねこと遊んだり、オーケストラで演奏したりしている。

受賞した研究内容について
がんに伴い著しい体重減少を引き起こす「がん悪液質」という疾患に対して、脂肪組織の萎縮メカニズムを解明することで、新たな治療法の開発を目指している研究です。これにより、がん治療における生存率やQOL(生活の質)の向上を目指しています。現在は主に抗がん剤による直接的な治療が中心ですが、がん悪液質に対するサポーティブな治療が確立されれば、がん治療全体に大きな変革をもたらす可能性があると考えています。
エディテージ・グラント2024次点を受賞して
受賞させていただきありがとうございました。大変励みになりました。
ご自身の研究について
がんを移植したマウスを用いて、がん悪液質の進行過程において脂肪組織に発現する遺伝子を解析したり、薬物を投与してその治療効果を検討したりしています。
ご縁があり、緩和医療の研究室の助教に着任したことがきっかけで、薬の力でがんの終末期のQOLを高めたいという思いが芽生えました。その中でも、がん悪液質は発症することで死亡率が高まることが報告されているにも関わらず、分子メカニズムの解明や治療薬の開発が遅れていると感じました。私は以前、抗肥満薬の研究に携わり、「太らない」薬の研究を行っていましたが、がん悪液質では「痩せない」ことを目指す研究に取り組むことで、自分ならではの視点を活かして研究を推進できるのではないかと考えました。
今後は、がん悪液質のメカニズムに関する仮説を一つ一つ丁寧に検証し、その理解を深めるとともに、治療の選択肢を広げていきたいと考えています。
エディテージ・グラントに応募した理由
企業で研究職に就いた後アカデミアへ転職したため、研究業績が少なく、現在の研究テーマでの成果も乏しい状況でした。そのため、研究費の確保に苦労していました。エディテージ・グラントは若手研究者を対象としており、業績が少ない応募者が優先されると知り、希望を持って応募しました。また、応募書類がエッセイだったため、自分のこれまでの歩みや研究にかける思いを率直に伝えられるのではないかと考えました。
グラントへの応募にあたり、苦労したことや工夫したこと
エッセイという形式の中で、どのように研究内容を効果的に伝えるかは特に工夫しました。研究の説明にとどまらず、自分の研究に対する想いや背景を分かりやすく伝えるよう意識しました。その結果、内面をさらけ出すような少し気恥ずかしい文章になりましたが、思い切って提出させていただきました。
エディテージ・グラントに応募してみて感じたこと
エディテージ・グラントは、用途に定めがなく、自由に使わせていただけるのでありがたいです。また、推薦等を必要としない点でも多くの人に応募の門が開かれていると感じました。
セレモニーのご案内をいただいたときはとても驚きました。研究では心が折れることも多く、将来に対して悲観的になることもありましたが、他の受賞者の方々との交流を通じて、自分の可能性をもう一度信じてみたいと思えました。短い時間でしたが多くの方とお話しでき、非常に貴重な経験となりました。
研究資金や実績がまだ十分でない若手研究者にとって、「研究→成果発表→資金獲得」、というサイクルを軌道に乗せるのは非常に難しいと感じています。エディテージ・グラントのように、若手にチャンスを与えてくれる支援制度がもっと増えていくことを願っています。