ケースレポート(症例報告)ってどう書くの? メディカルライターに聞いたノウハウ集

医療・臨床の現場で「これは興味深い!」と思う症例に出会ったとき、誰しも「この症例、ケースレポートとしてまとめてみようかな」と考えたことがあるのではないでしょうか。でも、いざ書こうとすると「どういう構成にしたらいいの?」「タイトルはどう付ける?」「これは本当に報告する価値があるの?」と、迷うポイントがたくさんありますよね。

そこで今回は、英文ケースレポート執筆サービスのライターであり、自身も複数の症例報告を執筆し、査読付き医学雑誌に掲載経験もある研究者の方に、ケースレポート執筆のコツや気をつけるべきポイントをインタビュー形式で教えてもらいました!

▼症例報告の執筆もエディテージにお任せください!
英文症例報告執筆サービスの詳細ページ

Yang Yi

東京大学で博士号を取得。ポスドク時代は、ナマコや小さな生物(正式名称:Peranema trichophorum)を使った研究を行ない、藻類がどのように進化したかについて、PLoS Oneなどのジャーナルで発表している。

― まず、ケースレポートを書くときの基本構成について教えてください。

ケースレポートは、基本的には「タイトル」「アブストラクト」「本文(導入、症例提示、考察)」「結論」「図表」の順番で構成されます。多くの読者は、最初にタイトルとアブストラクトを確認し、次に図表をざっと見て読むかどうかを判断することが多いため、アブストラクトと図表は「最初の勝負ポイント」と言えます。

本文ではまず導入(introduction)で、症例の背景や報告の意義を簡潔に説明し、次に症例提示(case presentation)で経過や治療の詳細を示し、考察(discussion)では文献と照らし合わせて意味を掘り下げます。結論では臨床的に何が得られたのか、他の医療者にとっての示唆を簡潔にまとめるとよいでしょう。

― タイトルやアブストラクトを効果的に書くコツはありますか?

タイトルには、そのケースのユニークな点や臨床的インパクトをしっかり入れ込むこと。 そしてアブストラクトでは、「何がこれまで分かっていなかったのか」「この症例から何が学べるのか」を最初の数行で伝えると◎です。 また、臨床的意義を明確にすることも非常に重要だと考えています。私はアブストラクトの中でもなるべく冒頭で示すようにしています。

さらに、タイトルは検索エンジンや論文データベースでのヒット率にも影響するので、「症例報告」「ケースレポート」などのキーワードや、専門性の高い用語を意識的に入れると良いですよ。

― 担当したケースが「ケースレポート執筆に値する」と判断するのはどういう時ですか?

まずは既存の文献をしっかり調べて、本当にこのケースがユニークかどうかを確認することですね。そのうえで、

  • 稀な症例である
  • 既知の疾患同士に意外な関連があった
  • 診断や治療で新しいアプローチを試した
  • 臨床的な意思決定に役立つ知見がある
  • 現在の臨床コンセンサスに影響を与えうる視点がある

といったポイントがあれば、報告する価値は十分にあります。

― 図や表の作り方にもコツはありますか?

あります!「図や表だけで話がだいたい伝わる」レベルを目指すのが理想です。実際、経験ある研究者は、アブストラクトを読んだらすぐ図に目をやるものです。 図や表には、しっかりした凡例(キャプション)をつけて、読者が本文を読まなくてもある程度内容が理解できるようにしておきましょう。

あと、図はGoogle画像検索でもヒットすることがあるので、視覚的にわかりやすい・整ったものにしておくと、別の研究者に発見されるチャンスも増えます。

― 執筆時にありがちな失敗ってありますか?

けっこうありますね。ありがちなのが、結論を急ぎすぎてしまうことです。「この症例はこうなんだ!」と言い切りたくなる気持ちは分かりますが、あくまで臨床現場から得られたひとつの知見として、他の研究や見解も紹介しながらバランスよく議論することが大事です。

そのほうが、読み手の納得感も増しますし、他の研究者とも「議論のきっかけ」が生まれやすくなります。 また、どの分野でも「研究バイアス」が存在しており、自分の領域に偏りがちな情報の見方を防ぐためにも、文献レビューは広く丁寧に行い、代替的な解釈にも目を向けるようにしています。

― 編集者や査読者の目線は、著者側では意外と気づきにくいですよね。

そうなんです。だからこそ、以下のことは意識しておくといいですよ。

  • 投稿するジャーナルのガイドラインはしっかり読む
  • 限界や代替解釈にも触れておく(自信がある時ほど大事)
  • 倫理的配慮(患者同意・個人情報保護・IRBの必要性)を明記
  • 利益相反(conflict of interest)の有無も開示
  • 専門外の人でも読みやすい文体にする(長すぎない・分かりやすい)
  • 分野の最近の動向を反映した文献引用をする
  • 投稿先のインパクトファクターやスコープと合っているか確認する
  • 査読者や編集者との関係も大事(自分が査読に協力するなどの“Give & Take”の姿勢が長期的に効く)

― 査読コメントへ対応するのは、けっこう大変ですよね?

大変です。でも、これも研究の大事なステップ。コメントはまず著者全員で共有して、ひとつひとつ丁寧に対応するのが基本です。

反論したいときは、感情的にならず、冷静な根拠とデータで示すのがポイント。そして、修正箇所を分かりやすく色分けしたり、対応表を作ったりして、査読者が見やすい形にするとスムーズです。 異なるレビュワーのコメントごとに色を変えると、より分かりやすくなります。

― ケースレポートがリジェクトされる理由には、どんなものがありますか?

よくあるのは、研究のギャップが曖昧だったり、データが少なすぎたり、論文構成が新規性を伝えられていない場合です。 また、ジャーナルのスコープと合っていなかったり、インパクトファクターに対して症例の重要性が足りなかったりすることも。

最近では、AI検出ツールや剽窃チェックツールによって自動的に弾かれるリスクもあるので、オリジナリティや倫理性の担保は必須です。

― 最後に、これから症例報告(ケースレポート)を書いてみたい人に一言!

最初はハードルが高く感じるかもしれませんが、ひとつの症例を深く掘り下げる体験は、すごく勉強になりますし、自分の臨床力アップにもつながるんですよね。

ぜひ、「このケース、他の人にも知ってほしいな」と思える症例があれば、まずは書いてみるところから始めてみてください!

▼英文症例報告執筆サービスの詳細はこちら

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

2002年に設立された、カクタス・コミュニケーションズの主力ブランドであるエディテージの目指すところは、世界中の研究者が言語的・地理的な障壁を乗り越え、国際的な学術雑誌から研究成果を発信し、研究者としての目標を達成するための支援です。20年以上にわたり、190か国以上の国から寄せられる研究者の変わり続けるニーズに対応し、研究成果を最大限広く伝えられるよう、あらゆるサポートを提供してきました。
今日、エディテージは専門家によるサービスとAIツールの両方を用いて、研究のあらゆる段階で便利に、安心して使っていただける包括的なソリューションを提供しています。

目次