インタビュー:学術活動で病院は強くなる! 地方病院の持続可能性を高める現場戦略

埼玉県北部に位置する埼玉県済生会加須病院(以下、加須病院)で診療と後輩育成を担う原先生は、医療人材の確保が難しい地域で、外科の現場を立て直しながら若手のキャリア支援と学術支援の両輪を回しています。

昨今、外科医不足が叫ばれています。原先生は、外科医減少の一因として、大学やハイボリュームセンターを離れ転職した若手外科医が自身の思い描いた「第2の外科医人生」が叶わず外科を離れてしまうことを嘆いていました。加須病院では、専門医等の資格取得に向けた年次計画をたて、英語論文の素案から仕上げまでを一貫して伴走して支援し、キャリア形成を念頭に置いた若手外科医支援に取り組んでいます。取り組み開始から数年で英語論文を中心に計10本の論文出版という成果を重ね、外科離れの抑止と採用力の向上を図っています。

本記事では、地方病院が抱える課題、そこで働くメリット、原先生の具体的な取り組みと成果、そして今後の課題についてお話を伺いました。

原 仁司 先生プロフィール

原 仁司

医師
埼玉県済生会加須病院 入退院支援センター長/副担当部長

埼玉県済生会加須病院所属。胃外科・一般/消化器・内視鏡外科を専門とする医学博士。外科・消化器系の指導医・専門医を多数保有。da Vinciコンソール資格、臨床研修指導医。緩和ケア研修・NST医師セミナー修了、日本外科系連合学会評議員。

まず、地域で外科医が不足している現状を教えてください。

原先生:埼玉県は人口10万人あたりの医師数が日本で最も少なく[参考1]、加須病院が位置する北部地域、利根医療圏は特に医療資源が乏しい地域のひとつです。大学からの人材派遣は難しく、外科は独自採用による人員確保に頼らざるを得ないのが実情です。三次救急を担う加須病院において、現行のマンパワーは十分とはいえません。将来を見据えると、30歳代半ばの層を中心に少なくともあと3人、できれば4〜5人の増員が必要だと考えています。

医師にとって大学・ハイボリュームセンターを離れる不安はあります。地方病院で働くメリットはなんですか?

原先生:一番は、臨床外科医として「第2の外科医人生を実直に積み上げられることですね。ライフイベントが重なる30歳代前半〜半ばの若手外科医にとって、ライフワークバランスの確保とともにキャリア形成は重要です。「資格取得の年次計画」をたて「学術活動の業績」が整えば、一般病院へ転職後も臨床外科医としてキャリア形成が可能です。逆に、ライフワークバランスが充実していても外科医としてのキャリア形成が叶わなければ、外科医を長く続けるのは難しいでしょう。キャリア支援は若手の外科離れ抑止に直結すると考えています。臨床外科医として働き続けることができる環境づくりが、持続可能な外科の未来につながります。地方病院で働くメリット・・・地方病院でひとくくりにするのは難しいですが、当院は働き方改革が遵守されており、ライフワークバランスを保ちながらキャリア形成が叶う点が大きなアドバンテージだと思います。三次救急にしてはコンパクトな病院ですが、院内の雰囲気がよく、各部署間の風通しがよいのも当院の特徴ですね。

原先生が所属する埼玉県済生会加須病院

論文支援はどのように実施しているのですか?

原先生:一般病院の臨床外科医なので、論文は症例報告が中心です。まず設計図のような素案を一緒に作ります。タイトル・導入・考察の論点・結語まで一貫した骨組みを最初に作り、流れを決めてから執筆へ移ります。いきなり「まず書いて」では“とんでもない原稿”になってしまいます。素案の段階から寄り添い、最終的にアクセプトされる論文に仕上げます。海外ジャーナルの投稿規定は慣れないととっつきにくいものですし、原稿の書き方、TableやFigureの作り方も経験がないとなかなか難しいので、これらのサポートもしています。指導を重ねる過程で後輩たちの成長を実感することも多く、私のモチベーションになっています。また、投稿先のジャーナル選びも重要です。いわゆるハゲタカジャーナルへの投稿は絶対に回避しなくてはなりません。私が内容にあったジャーナルをいくつか候補に挙げることが多いですね。

今までの具体的な育成例として、一つ目のケースとしては関連大学の専門医研修プログラムで1年半在籍した若手レジデントが、臨床と並行して英語の症例報告3本を書きあげ、同期の中で突出した業績を残して大学に戻っていきました。もう一つは、大学で専門医と学位を取得後に転職したものの症例数や学術活動の機会に乏しかった30歳代の先生のために、資格申請に必要なポイントやセミナー受講などの年次計画を作成し、業績に必要な論文執筆や学会発表を支援しました。その先生は、当院入職3年目で消化器外科専門医試験に合格されました。次世代を担う人材となるべく各種指導医資格まで取得するのが今後の目標になっています。きめ細やかな指導や支援を提供できれば、地方病院への転職であってもキャリア形成で不利になることはないと考えています。

全体での論文面の成果を教えてください。

原先生:私は2022年4月に大学を離れ当院に転職しました。現在の加須病院へ新築移転(2022年6月)後半年ほどでこの取り組みを始動し、英語論文の1本目は2023年11月でした。まずは自ら行動で示す必要があったので、1本目は私が書きました。当院から発信された論文は、それから2年弱で英文7本+和文3本=計10本、英文7本の合計IF(インパクトファクター)は11程です。論文の題材は、都市部に比べ症例数が劣るため、レアな症例をただ待っているだけでは現実的ではありません。しかし、診断や治療の成功例や新しい術式の工夫など、学習的な価値に着目すれば当院の症例数でも十分に英語の症例報告を書くことが可能です。臨床医として日々の症例を深く掘り下げ、よりよい治療を常に心掛けることが重要と考えています。臨床医として日常臨床をおろそかにしないことが基本です。論文執筆は知識の整理のみならず診断法や治療法をロジックに振り返るよい機会になるため、臨床医としてポジティブなフィードバックが得られます。医師はscientistでもあると思っているので、論文という足跡を医学界に残すことは貴重だと思います。

学術活動が採用や育成に効いてきたというお話でしたが、最近の大きな出来事があるそうですね。

原先生:はい。英語論文の執筆を地道に続けてきたところ、海外ジャーナルから査読の依頼が多く届くようになりました。良質なジャーナルのみ選んで対応していますが、2025年はその中から十数件の査読を行いました。さらに、査読の対応をご評価いただいたのかeditorial board memberの招待を複数いただき、2026年1月より海外の某ジャーナルの editorial board memberとして活動することになりました。自施設からの論文発信はもちろんですが、海外ジャーナルのeditorial board memberとして活動し多くの論文に触れることで、これまでの取り組みに良い影響をあるのではと期待しています。

今回、先ほどふれた論文の中の一つをもとに、エディテージでグラフィカルアブストラクトを作成しましたが、その内容について教えてください。

原先生:胃GISTという悪性腫瘍に行うLECS(腹腔鏡内視鏡合同手術)のひとつであるCLEAN-NET法にオリジナルの工夫を加え報告したビデオ付きケースレポートです。術式に関するものなので、内容的にはテクニカルノートの側面もあると思います。従来のCLEAN-NET法では、腫瘍周囲に全周性の漿膜筋層切開を行い、そこから腫瘍を管腔外へ誘導して切除します。この報告では、温存したい噴門の対側のみ半周性に漿膜筋層切開を行いました。この工夫により、手術手技が簡便化され、リニアステープラーによる容易な全層一括切除が実現しました。噴門近傍の3cm大、管内発育型腫瘍の胃GISTの症例でしたが、使用したステープラーは60mm、1本のみと低コストで、最小限の胃壁切除により噴門は温存され術後の変形はほとんどみられませんでした。この術式が難しい場合、漿膜筋層切開を全周性に延長することで従来のCLEAN-NET法に簡単に移行できる点も利点です。優れた術式であると実感しており、症例を集積してまとめたものを改めて報告できればと考えています。

グラフィカルアブストラクトは、この論文にも掲載された術式シェーマと手術ビデオを参考に作成してもらいました。グラフィカルアブストラクトは初めての経験でしたが、論文の要旨を視覚的に訴えることができるとても魅力的かつ強力なツールだと感じました。論文プロモーションの新しいトレンドといえるのではないでしょうか。

現時点での課題を教えてください。

原先生:まず人員構成では、30代半ばの層をあと3〜5名確保し、10〜20年先を見据えた体制を整える必要があります。急患の症例数には波があるため、多少の余剰人員を持てるくらいが望ましいです。現在の取り組みによる採用への直接的効果はこれからですが、「キャリア支援×学術支援」により若手外科医が生き生きと働ける環境づくりが実現している手応えを感じています。このインタビューで露出が増えれば、加須病院が若手外科医のキャリア支援に積極的な病院だと広く知ってもらえるのではないかと期待しています。さらなる情報発信が必要ですが、病院の医師募集などだけでは足りません。露出を増やし、興味を持ってくれた先生方に「第2の外科医人生」を支援する活動についてわかりやすく情報発信したいと考えています。特に、大学やハイボリュームセンターを離れ臨床外科医として転職を考えている若手外科医に興味をもってもらえたら嬉しいです。当院ならきっと充実した「第2の外科医人生」を提案できると確信しています。

また、資金面の課題も無視できません。物価高騰や診療報酬の引き締めといった苦しい逆風の中、若手教育や学術支援を継続できる仕組みを病院と一体で維持することが求められます。オープンアクセス化に伴い、最近は高額なAPCが珍しくありません。当院には学術活動の費用を支援する規程があり利用可能です。しかし、簡単に捻出できる金額ではなく、全国的に苦しい病院経営の中、支援にも限界があります。なんらかの資金獲得、低コストで投稿可能な投稿先ジャーナル選びが求められます。英語論文を発信するカルチャーが根付いてきたので今後も海外誌への投稿を続けたいところですが、投稿費用が抑えられる国内誌への投稿も増えていくかもしれません。


地方の病院であっても、「臨床×学術活動×キャリア形成」を中核に据えた持続可能な体制づくりは、若手外科医の離職抑止に貢献し、地域医療の屋台骨を確かにします。そして、論文と資格という“見える成果”は採用力と定着率を押し上げ、教育と診療の質を高める好循環へとつながります。原先生の伴走型支援の実践が、人材確保やブランド力、収益の安定といった病院経営にもどれほどの追い風をもたらすのか——その先の展開に期待がもたれます。

[参考1]  厚生労働省 令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/22/index.html


ジャーナル投稿も、研究プロモーションも、
見栄えの良いグラフィカルアブストラクトで差をつける!

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この記事を書いた人

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