前回の記事では、学会発表がうまく伝わらない理由を、研究内容そのものではなく「情報の整理」と「スライド構造」の問題として整理しました。スライドを構造化するだけで、聞き手の理解度が大きく変わることを実感した方も多いのではないでしょうか。
しかし、スライドの構造が整っただけでは、発表はまだ完成ではありません。「時間内に終えたはずなのに、結局何を言いたかったのか聞かれる」「データは悪くないのに、反応が薄い」。こうした違和感は、発表原稿の作り方や練習方法に原因が残っていることが多くあります。
学会発表では、スライドはあくまで補助的な道具であり、研究のストーリーを言葉としてどう届けるかが重要になります。特に10分発表では、情報の取捨選択、話す順序、強調の仕方によって、伝わり方に大きな差が生まれます。この記事では、生命科学系の10分発表を想定し、
- 発表原稿をどのような考え方で組み立てるか
- 限られた時間で要点を伝えるための練習方法
- 本番でパフォーマンスを安定させるための準備
- 質疑応答にどう備え、どう対応するか
▶学会PPT発表完全ガイド1:なぜ学会発表でうまく伝えられないのか?
▶︎口頭発表とあわせて押さえたい:学会ポスター発表完全ガイド(記事一覧)
●筆者紹介
相澤有美
東京農業大学大学院博士課程修了(農芸化学専攻)。
専門分野は代謝学およびメタボロミクス。代謝経路解析や制御機構に関する研究、栄養学や分子生物学的研究に従事。
日本分子生物学会などに所属。

情報の取捨選択:「3つの核心メッセージ」を決める
学会発表でよく起こる失敗の一つが、「伝えたいことを全部入れてしまう」ことです。研究に時間をかけてきた分、「このデータも重要」「この結果も外せない」と感じるのは自然なことですが、情報を詰め込みすぎた発表は、聞き手にとっては負担になります。結果として、発表を聞き終えたあとに「結局、何が一番言いたかったのか分からない」という印象が残ってしまいます。
そこでまず行いたいのが、発表全体で伝えたい核心メッセージを3つに絞ることです。
3つ以上になると、聴衆は覚えきれません。逆に言えば、3つに絞ることで、発表の軸がはっきりします。
核心メッセージを選ぶ際は、次のような問いを自分に投げかけてみてください。
- あなたの研究の最大の強みは何か
- 聴衆が最も驚く発見は何か
- 5年後でも覚えていてほしいポイントは何か
この問いに答える過程で、発表に入れるべき情報と、削るべき情報の境界が見えてきます。
発表原稿は「話し言葉」で書く
スライド構造が整っていても、原稿が論文調のままだと、発表は伝わりません。論文の文章(書き言葉)と、発表原稿(話し言葉)は別物だからです。たとえば、論文では次のような表現が一般的です。
【書き言葉】
本研究では、X遺伝子の発現量をリアルタイムPCR法により定量し、ストレス処理群と対照群の比較解析を実施した。
これをそのまま読み上げると、聞き手は途中で置いていかれてしまいます。発表では、次のように言い換えます。
【話し言葉】
今回は、X遺伝子の発現量を測定しました。
方法はリアルタイムPCRです。
ストレスを与えた群と、与えていない対照群を比べています。
文を短く区切り、「何をしたか」を順番に伝えることで、理解しやすくなります。
話し言葉で書くためのコツ
原稿を書く際は、次の点を意識すると、聞き手が迷子になりにくくなります。
- 一文は 15〜20語程度 に抑える
(発話と同時に理解させるには、これ以上長い文は処理が追いつかなくなるためです。) - 能動態を使う
(「測定された」ではなく「測定しました」) - 専門用語には、初出時に短い説明を添える
(例:「アポトーシス、つまり細胞死のことですが」) - 接続詞を意識的に使う
発表では、文章の正確さよりも、「今どこを話しているのか」が伝わることの方が重要です。
「つなぎの言葉」で発表の流れを作る
もう一つ見落とされがちなのが、スライドとスライドの間のつなぎです。スライド自体は理解できても、話の流れが分からないと、聞き手は置いていかれてしまいます。そこで役立つのが、「つなぎの言葉」です。
- スライドを進めるとき
「では、次に〜について見ていきましょう」 - 結果を強調するとき
「ここが今回の最も重要な発見です」 - 因果関係を示すとき
「この結果から、〜ということが言えます」 - 対比を示すとき
「一方で」「しかし、興味深いことに」
こうした言葉は、聞き手にとっての道しるべになります。意識的に使うだけで、発表全体の理解度は大きく変わります。
時間配分の目安:10分発表を設計する
10分発表では、「すべてを説明する」ことはできません。限られた時間の中で伝えられるのは、研究のごく一部です。だからこそ、どこに時間を使い、どこを削るかを事前に決めておくことが重要になります。
目安として、10分発表ではスライドは 10〜12枚程度 に収めるのが一般的です。スライドを作りながら時間配分を考えるのではなく、先に時間の枠を決め、その中に内容を当てはめると、構成がぶれにくくなります。
【10分発表の推奨構成】
10分発表の一例を、時間とスライド枚数の目安で整理すると、次のようになります。
| セクション | 時間 | スライド数 | 備考 |
| タイトル・自己紹介 | 30秒 | 1枚 | ここでは詳細に語る必要はありません。 |
| 研究背景・問題提起 | 2分 | 2-3枚 | 背景は長くなりがちですが、ここは意識的に短くします。「なぜこの研究が必要か」が伝われば十分です。 |
| 研究目的・仮説 | 30秒 | 1枚 | 研究のゴールを明確に示します。ここが曖昧だと、その後の話もぼやけます。 |
| 方法 | 1分 | 1-2枚 | 詳細な手順の説明は省き、「何をどう調べたか」だけを伝えます。このパートは、全体の時間調整にも使いやすいセクションです。 |
| 結果 | 4分 | 3-4枚 | 発表の中で最も重要な部分です。伝えたい結果にしっかり時間を割くことが、印象に残る発表につながります。 |
| 考察・結論 | 1分30秒 | 1-2枚 | 結果が何を意味するのかをまとめます。「だから何が言えるのか」を意識しましょう。 |
| 今後の展開 | 30秒 | 1枚 | 研究の広がりや次の課題を簡潔に示し、発表を締めくくります。 |
この配分はあくまで目安ですが、結果に最も時間を割くという考え方は、どの分野でも共通です。
5分発表・15分発表への応用
発表時間が変わっても、基本的な考え方は同じです。変えるべきなのは、スライドの枚数ではなく、「どこまで語るか」の深さです。
5分発表の場合
5分発表では、スライドを 5〜6枚程度 に圧縮します。背景や方法は最小限にとどめ、「何をやった研究で、何が一番わかったのか」が伝わることを最優先にします。細部を語るよりも、一つの結果をはっきり残すことを意識しましょう。
15分発表の場合
15分発表では、結果セクションを中心に構成を広げることができます。必要に応じて補足データを示し、なぜその結論に至ったのかを、データの裏付けとともに説明します。ただし、背景や目的を増やしすぎると、結局時間が足りなくなります。時間が増えた分は、結果と考察に使うという意識が重要です。
効果的な練習方法:本番に近づけるための準備
発表練習というと、「原稿を暗記すること」だと思われがちですが、実際にはそれほど力技で進める必要はありません。重要なのは、原稿に頼った状態から、少しずつ自立して話せる状態へ移行することです。
1. 段階的に進める練習
最初から完璧に話そうとすると、かえって詰まってしまいます。練習は、次のように段階を分けて進めるのが現実的です。
まずは、「原稿を見ながら読む」ところから始めます。この段階では、言いにくい表現を修正しながら、発表全体の時間を測ることが目的です。目安としては、1〜3回程度行えば十分です。
次に、「原稿を時々見ながら話す」練習に移ります。スライドを見ながら、思い出せる部分は原稿を見ずに話してみましょう。まだ不安なところだけ原稿を確認する、という意識で進めます。この段階は、4〜7回目が目安です。
その後は、「原稿を使わず、キーワードだけをメモした状態」で話してみます。ほぼ内容が頭に入った状態で、自分の言葉に置き換えて説明できるようになります。8〜10回目あたりが、この段階にあたります。
最後に、「何も見ずに話す」練習を行います。これは暗記テストではなく、本番と同じ状況を再現するための練習です。11回目以降は、この状態で安定して話せることを目指します。なお、回数はあくまで目安です。重要なのは「何回やったか」ではなく、「どの段階にいるか」を意識することです。
2. 録画・録音によるセルフチェック
練習の中で、ぜひ一度は取り入れてほしいのが、録画や録音によるセルフチェックです。自分では気づきにくい癖が、客観的に見ることで驚くほどはっきり分かります。スマートフォンで発表を録画・録音し、次の点を確認してみてください。
- 話すスピードが速くなりすぎていないか(録音を1.2倍速で再生しても聞き取れるかが一つの目安です)
- 「えー」「あのー」といった口癖が多く出ていないか
- 姿勢や視線は適切か(スライドばかり見ていないか)
- ジェスチャーが不自然になっていないか
最初は自分の姿を見ることに違和感があるかもしれませんが、1回チェックするだけで改善点が一気に見えることもあります。
3. 他者からのフィードバックを活用する
最後に、他人の視点を取り入れることも重要です。自分では分かっているつもりでも、聞き手には伝わっていない部分が必ずあります。
- 同じ研究室のメンバーに聞いてもらう
- 異なる分野の人にも聞いてもらう(専門用語が通じるかを確認する)
- 「どこが分かりにくかったか」を具体的に聞く
ここで大切なのは、「良かった点」よりも、分かりにくかった点を率直に教えてもらうことです。その指摘こそが、本番前に修正できる最大のチャンスになります。
本番で心がけたいこと:落ち着いて「伝える」ために
どれだけ準備をしていても、本番は緊張します。それ自体は悪いことではありません。大切なのは、緊張した状態でも、やるべきことを淡々と実行できるようにしておくことです。
1. 発表直前に整えておくこと
発表が始まる直前は、どうしても気持ちが前のめりになります。そんなときほど、一度立ち止まって呼吸を整えましょう。深呼吸を3回行い、意識的に肩の力を抜きます。
その後、機材の最終確認を行います。接続が問題なくできているか、フォントが崩れていないか、動画やアニメーションがある場合は正しく再生されるか。この確認を終えておくだけで、余計な不安が減ります。
また、時間配分を意識するために、時計を見やすい位置に置いておくことも忘れないようにしましょう。残り時間が把握できていれば、「焦って早口になる」ことを防ぎやすくなります。
2. 発表中に意識したい3つのテクニック
テクニック①:話すスピードをコントロールする
緊張すると、多くの人が無意識に早口になります。そのため、本番では「普段より少し遅いくらい」を意識するのがおすすめです。目安としては、普段の7割程度のスピード。特に重要なデータや結論を述べる前後では、あえて一拍置くことで、聴衆の理解が追いつきやすくなります。
テクニック②:視線の配り方
発表中、ずっとスライドを見て話していないでしょうか。意識したいのは、発表時間の8割は聴衆を見ることです。うなずいている人や、こちらを真剣に見ている人を一人見つけ、その人に語りかけるように話すと、自然と声のトーンも安定します。会場の前方・中央・後方に視線を分散させることで、「全体に向けて話している」印象を与えられます。
テクニック③:身体の使い方
立ち位置や動きも、発表の印象に影響します。スライドからは1.5〜2メートルほど距離を取り、スクリーンの前に立たないようにしましょう。ジェスチャーは多用せず、ポイントを強調したい場面だけで使う方が効果的です。レーザーポインターを使う場合は、指した位置で3秒ほど静止させます。動かし続けると、かえって視線が散ってしまいます。
3. 本番で避けたい行動
最後に、よく見られるNG行動も押さえておきましょう。聴衆に背を向けてスライドを読み上げると、「説明している」より「読み上げている」印象が強くなります。
また、「時間がないのでここは飛ばします」といった発言は、準備不足の印象を与えやすいため避けたいところです。「うまく説明できませんが」「準備不足で」といった過度な前置きも必要ありません。聴衆は、あなたがどれだけ不安かではなく、何を伝えたいのかを聞きに来ています。原稿を棒読みするのではなく、「相手に話しかける」意識を持つだけで、発表の伝わり方は大きく変わります。
質疑応答で評価を落とさないために
学会発表では、「発表そのもの」よりも、質疑応答で評価が決まる場面が少なくありません。
どれだけスライドが整っていても、質疑応答で慌てたり、防御的な態度を取ってしまったりすると、全体の印象が下がってしまいます。大切なのは、完璧な回答をすることではなく、落ち着いて、誠実にやり取りすることです。
1. 質疑応答の基本的な流れ
まずは、どんな質問に対しても共通する基本動作を押さえておきましょう。質問が来たら、最後まで遮らずに聞きます。途中で答えを考え始めると、質問の意図を取り違えやすくなります。
次に、質問を自分の言葉で簡単に言い換えて確認します。「〇〇という点についてのご質問でよろしいでしょうか」と確認するだけで、聞き違いを防げますし、考える時間も自然に確保できます。回答は、「ありがとうございます」で始め、結論を先に述べるのが基本です。
その後に根拠やデータを補足し、最後は「以上です」と明確に締めることで、聞き手も安心して次の質問に移れます。
2. 想定外の質問が来たときの考え方
質疑応答で困るのは、「答えを用意していなかった質問」が来たときです。ただし、それ自体は失敗ではありません。
・答えられない質問をされた場合:
データがない、検討していない内容について聞かれることはよくあります。その場合は、無理に答えようとせず、正直に伝えましょう。「重要なご指摘ありがとうございます。その点については現在データがございませんので、今後の検討課題とさせていただきます。」ポイントは、「分からない」で終わらせず、今後につなげる姿勢を示すことです。
・批判的な質問をされた場合:
指摘や批判を向けられると、つい身構えてしまいます。しかし、ここで防御的になると印象が悪くなります。
「貴重なご意見ありがとうございます。ご指摘の通り、〇〇という点は本研究の限界です。今後は△△の方法で改善を検討したいと考えています。」
一度相手の意見を受け止めたうえで、改善の方向性を示す。それだけで、議論として前向きな印象になります。
オンライン発表特有の注意点
近年は、Zoomなどを用いたオンライン発表も一般的になりました。オンライン発表では、内容以前に「聞こえる」「見える」ことが前提条件になります。
まず、カメラ目線を意識しましょう。画面ではなくカメラを見ることで、「話しかけている」印象が伝わります。画面共有の切り替えや、スライドの表示方法は事前に必ず練習しておきます。音声についても、マイクテストは必須です。聞き返されるだけで、流れが途切れてしまいます。
また、トラブルに備えてスライドはPDF化しておくと安心です。インターネット接続の安定性も含め、「技術的な不安要素を事前に潰す」ことが、オンライン発表では特に重要です。
まとめ
学会発表で成果が正しく伝わるかどうかは、話し方の上手さだけで決まるものではありません。どの情報を選び、どの順序で配置し、どの言葉で橋渡しするか。発表の伝達力は、準備段階での設計によってほぼ決まります。スライドを構造化し、伝えたい核心を三つに絞り、時間配分を意識して原稿を組み立てる。そのうえで、段階的に練習し、本番では落ち着いて聴衆と向き合う。
質疑応答も含めて発表全体を「対話の場」と捉えられれば、必要以上に構えることはありません。重要なのは、完璧な説明を目指すことではなく、研究の価値が正しく伝わる状態をつくることです。答えられない質問が出ることも、議論が深まることも、すべては研究が前に進んでいる証拠です。
発表は評価される場であると同時に、研究を磨くためのプロセスでもあります。適切に設計された発表は、聴衆の理解を助けるだけでなく、発表者自身の思考を整理し、研究そのものの輪郭をより明確にしてくれます。
参考文献
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- Dahlstrom, M. F. (2014). Using narratives and storytelling to communicate science with nonexpert audiences. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(Supplement 4), 13614-13620.
- Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257-285.
- Garner, J., Alley, M., Gaudelli, A., & Zappe, S. (2009). Common Use of PowerPoint versus the Assertion-Evidence Structure: A Cognitive Psychology Perspective. Technical Communication, 56(4), 331-345.
- Reynolds, G. (2011). Presentation Zen: Simple Ideas on Presentation Design and Delivery (2nd ed.). New Riders.


