人工知能(AI)は、研究の分野を含むさまざまな領域で、その存在感を示し続けています。多くの学生、著者、研究者が、このデジタル進化の新たな時代に少しずつ順応しつつあります。それでも彼らは、自分の研究論文の原稿を唯一無二のものにしている「人間らしさ」を手放したくはないと考えています。
この記事では、すべての著者がジャーナルに研究論文の原稿を投稿する前に行うべき、AI使用後の10の重要なチェックを紹介します。
1. 技術的な正確性のチェック
AIツールは、原稿内の不整合について表面的な確認を行うことはできます。しかし、技術的な正確性や科学的な妥当性となると、人間によるレビューが欠かせません。たとえば、自分の研究の方法論や研究デザインについてブレインストーミングをすることにした場合、AIツールは提案を示してくれます。しかし、提案された研究方法が自分の研究に適しているかどうか、つまり質的研究、量的研究、混合研究法のいずれのアプローチがふさわしいかは、ツールではなくあなた自身が評価しなければなりません。
技術的な正確性には、次のような確認も含まれます。
- 実験が求められる科学的な基準と手順に従っているか
- データ解析が正確か
- 数値結果に一貫性があるか
- 事実関係が正しいか
- AIが編集の際に、意図した科学的な意味をゆがめていないか
- 原稿全体を通じて情報が正確に示されているか
2. 分野固有の専門用語
ChatGPTのような汎用のAIチャットボットは、学術用途向けにトレーニングされたものではありません。そのため、研究論文の原稿の文章のチェックや改善をそれらに頼ると、不正確な言い回しが文中に紛れ込む結果になりかねません。あるウェブサイトのコンテンツを誤った形で自動翻訳した事例について、その影響をまとめた研究があります。その翻訳では、空調(HVAC)システムの「free cooling(フリークーリング)」が「free refreshment(無料の軽食)」と訳されていました[1]。このような誤りが研究論文で起こったらどうなるか、想像してみてください。
だからこそ著者は、使用している専門用語が正しいかどうかを、常に原稿で見直すべきなのです。次の例を見てみましょう。
- 行動特性を探る心理学の論文では、人の特性や行動を表す際に「antisocial(反社会的)」と「asocial(非社交的)」を混同してはなりません。前者は社会に対する反社会的または有害な行動を示し、後者は内向的な特性を示します。
- 研究がデータプライバシーの側面を扱う場合は、匿名化データ(個人を再識別できないもの)を指しているのか、仮名化データ(元に戻して再識別することが可能なもの)を指しているのかを把握しておきましょう。
こうした専門用語には細心の注意を払い、意図した意味を正しく伝えられるよう、正確な用語を使うようにしましょう。
3. 報告ガイドラインへの準拠
報告する研究結果は、研究デザインに応じて、CONSORT、PRISMA、STROBE、ARRIVEなどの標準化された報告ガイドラインに準拠している必要があります[2]。この確認をAIツールに任せるのは理想的とはいえません。
原稿の検証に用いるチェックリストは、ジャーナルごとに独自のものになっていることが多く、汎用のツールでは検証できません。ジャーナルによっては、ガイドラインの公式チェックリストを補足ファイルとして提出するよう求めており、各項目が「記載済み」「記載なし」「一部記載」のいずれであるかを明示しなければならないからです。また、対応する情報が原稿のどのセクションにあるかを、行番号やページ番号とともに示すことも求められます。この準拠のチェックは、厳密に人間が主導して行うべきものです。
4. データ解釈のチェック
統計、データ、数値、これらはあらゆる研究の土台です。AIツールはデータの集約、整理、解析をしてくれますが、その解釈はあなた自身が担わなければなりません。データと研究デザインに適した統計手法が用いられているでしょうか。結果は統計的に有意かもしれませんが、科学的に重要でしょうか。こうした点は、AIツールではなく、人間のチェック担当者が判断しなければなりません。
さらに、研究結果が否定的であったり、矛盾していたりする場合もあります。AIツールは、報告の際にそうした結果を重視しないことがあります。それどころか、まったく報告しないこともあるのです。ただし、研究全体の論旨を適切に保ちながら、こうした結果をどのように報告するかは、著者自身が判断しなければなりません。ジャーナルへの投稿前に統計上の誤りを見つけて修正するため、専門家による統計解析サービスを利用するのもよいでしょう。
5. ジャーナルの対象範囲との適合性
ジャーナルの対象範囲との適合性の確認は、AIツールに任せられる仕事のように思えるかもしれません。ジャーナルを簡単に絞り込めるツールがあるのだから、最適なジャーナルかどうかの確認もできるのではないか、と。ここに落とし穴があります。AIツールは、さまざまな要素を大まかに分析して、ジャーナルの候補リストを示してくれます。しかし、どれが最も適しているかを判断するのは著者です。
たとえば、子宮頸がんの新しい診断技術を報告する原稿の場合、AIツールは婦人科学や腫瘍学に関連するジャーナルを推薦するかもしれません。しかし、婦人科学のジャーナルは、研究テーマが専門的すぎると判断し、対象範囲との不一致を理由に投稿をリジェクトする可能性があります。同様に、腫瘍学のジャーナルも、その論文が自誌の想定読者に合わないと考えるかもしれません。ここで著者が認識すべきなのは、この研究が2つの分野(婦人科学と腫瘍学)にまたがる特定の診断技術を調べたものだということです。したがって、最も適しているのは、女性生殖器がんに焦点を当てたジャーナルでしょう。
ヒント:ジャーナルの目的と対象範囲、好まれる論文種別、最近掲載された論文、想定読者、受け付けている分野を自分の目で確認し、そのジャーナルに合っているかを判断しましょう。
6. 倫理に関する開示
ほとんどの出版社がAIツールの使用をある程度認めていることを考えると、他の倫理に関する開示に加えて、AIツールの使用を開示することも必要になります。AIの使用に関するガイドラインでは、非倫理的な研究行為について責任を負うのは著者のみであることが明確にされています。つまり、人間が主導するチェックには、次の項目を含める必要があります。
- すべての参加者からインフォームド・コンセントを得ているか
- ヒトや動物を対象とする試験について、倫理委員会や施設内倫理審査委員会(IRB)から必要な承認を得ているか
- 試験は必要な手続きに従って登録されているか
- 著作権のある情報を転載するための適切な許諾を得ているか
- 機密データはすべて保護されているか
- AIの使用に関する開示文は完全かつ正確で、ジャーナルのポリシーに従っているか
- 著者名、所属、資金源、著者の貢献、利益相反などの詳細が、求められるとおりに記載されているか
7. 図の見直し
2024年、Frontiersのオープンアクセスジャーナルに掲載された細胞生物学の論文に、AIが生成した画像が含まれていました。ラットの解剖学的構造が不正確に描かれ、図のラベルの文字が崩れ、そのほかの科学的な図も実態を誤って表したもので[3]、学術出版の世界にかなりの波紋を広げました。それから2年が経ち、ある研究によって、こうした事例は特別なものではないことが明らかになりました。4,700件を超える出版済みの医学資料(査読付きジャーナルの論文やオンラインの解剖学講座)を対象としたシステマティックレビューでは、AIが生成した画像の10.8%超に、重大な解剖学的誤りが見つかったのです[4]。
画像の作成、補正、修正にAIを使うことは、次第に当たり前になってきました。しかし、特に学術出版において、図の正確性を確認する責任は、引き続き人間にあります。
8. 参考文献の検証
論文工場(ペーパーミル)の活動や、生成AIツールによる参考文献の捏造は、科学出版における大きな懸念事項となっています[5]。そのため、文献レビューにAIツールを使う場合は、そのツールが学術用途に特化して設計されたものであることを確かめましょう。そのうえで、参考文献が実在するかを確認し、引用している論文が撤回されていないことも確かめてください。
論文撤回の状況には、ときどき目を配っておきましょう。撤回された研究を、自分の過去の論文で引用していないでしょうか。見直す必要はないでしょうか。研究者は、自分の過去の研究をもとに研究を発展させていくことがよくあります。過去の論文で撤回論文を引用していた場合は、それを引き継いでしまうという過ちを犯さないようにしましょう。
9. 引用の正確性と関連性
参考文献を確認する際には、引用が正確で、関連性があるかどうかも確認しなければなりません。番号が正しいか、引用文献が実在するかを確かめるだけではありません。より重要なのは、「その引用は、自分の主張を本当に裏付けているか」という問いです。これを確認するには、引用した文献と、自分が提示したエビデンスの両方を詳しく検討し、両者が十分に関連していることを確かめる必要があります。
関連性については、文献が比較的新しいものかどうかを確認しましょう。もはや十分な関連性がなく、分析に適さなくなった古い研究方法を、自分の研究の土台にはしたくないはずです。
10. 投稿要件への準拠
全体として、投稿要件がすべて満たされているかを確認しましょう。ジャーナルによっては、必要な手順をすべて踏んだかどうかを確認するための独自のチェックリストを用意しているところもあります。それを活用しましょう。リストの項目を一つずつ手作業でチェックしていくことは、AIツールにはできないことです。チェックリストを、ときには自分用にカスタマイズしたものも使って、ジャーナルへの投稿に必要なすべての作業が完了していることを確かめましょう。
- 研究課題は適切か:広すぎず、限定的すぎず、研究目的と合致しているか。
- 研究方法は再現可能か。選択基準・除外基準、サンプルの選択、機器の詳細、実験手順の説明、装置名、ソフトウェアのバージョンなどの要素を確認する。
- エビデンスは主張を裏付けるのに十分か。また、研究結果から導かれる示唆が、結果を過大に解釈したものになっていないか。
- 考察セクションで、研究結果、解釈、限界のバランスがとれているか。
- 研究公正に関する確認。原稿がほかのジャーナルで審査中ではないか(二重投稿)。抄録を学会に提出していないか。既発表の論文と大幅に重複していないか。これらは問題になる可能性がある。
- ジャーナル固有のチェック。補足ファイルは含まれているか。カバーレターは用意されているか。すべてのファイルがジャーナルの求める形式で提出されているか。語数を明記したか。論文は匿名化されているか。要件はジャーナルによって異なるため、これらを自分の目で確認することが重要である。
AIの助けを借りて原稿を作成したなら、AIが見落としたかもしれない点を確認する必要があります。ジャーナルに投稿する前に、エディテージの投稿前AIリスク検証サービスをご利用ください。
参考文献
- From translation chaos to an efficient B2B lead machine https://weventure.de/en/case-studies/website-relaunch-ics
- Equator Network https://www.equator-network.org/reporting-guidelines/
- Scientific journal publishes AI-generated rat with gigantic penis in worrying incident https://www.vice.com/en/article/scientific-journal-frontiers-publishes-ai-generated-rat-with-gigantic-penis-in-worrying-incident/
- A Inaccurate Anatomy: Prevalence of Artificial Intelligence–Generated Illustration Errors in Peer-reviewed Aesthetic Medicine Publications https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13108651/
- Fabricated citations: an audit across 2.5 million biomedical papers https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(26)00603-3/fulltext

