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北村先生のご専門は国際間の学術ネットワークの構築ということですが、具体的にはどういう研究をされているのでしょうか?

日本も含めて、日本あるいは主にアジア太平洋地域で、国のプロジェクトで作られた研究用のネットワーク、あるいは国の研究所が作った研究用のネットワークを相互接続して、アジア太平洋地域の研究者が高速なデータ通信ができる環境を構築するための技術を専門にしています。

一般のインターネットとはどこが違うのでしょうか?

皆さんが一般的に使っているインターネットには商用サービス、広告とかウェブを使っての商売上の取引が色々入ってきているのですが、そのために一般のインターネットを研究用に使おうとした場合、時々、不都合が生じることがあります。一つは混んでいるということがありますね。もう一つは、経路ですね。経路が商用サービスに便利なように作られていますので、必ずしも研究者にとって便利でないことが多いです。こういう話をする時によく使うたとえ話なのですけれど、高速道路と一般道路という話があります。研究ネットワークというのは高速道路です。高速道路は自分たちが必要なインターチェンジを作ってその間は高速で走行できます。でも、高速道路の脇においしそうなお店が見えても、そこで降りることはできないというネットワークです。それに対して、一般のインターネットは一般道路ですので混んでいることもありますが、自由に右にも左にも曲がれます。そこが違いますね。ですので、自由に降りたり乗ったりできなくても、目的地に到達できることを重要視するか、あるいは途中で寄り道や裏道などいろんな道をぐるぐる回れるかという違いがあります。私たちの場合は、その高速道路を作っています。

日本の研究者の方で、先生のネットワークをご利用されている人もいるのでしょうか?

そうですね、私たちが始めたのは1997年で、当時はほそぼそとでしたが、現在はかなり広がるようになりまして、今は日本国内の研究ネットワークにつながっている方はほとんどが使えるようになっています。

海外とのネットワークを構築する際、お仕事される相手は主に外国の政府や研究機関の方だと伺ったのですが、今までどういった国とお仕事されてきましたか?

中国、タイ、インド、台湾ですね。

海外の担当者とコミュニケーションをする際に苦労されたことはありますか?

私たちが相手にしているのは外国、とくに政府や省庁でして、日本もそうですが、どこの国でも多少、縦割りがあって、現地のそれぞれの陣営が自分たちでネットワークのプロジェクトを持っていることがあり、それぞれの省庁などで勢力争いがあることもありまして、そういう場合、勢力争いをしている両方に話をする、そうしないとそれぞれの陣営の下部の研究機関と話ができないことがあります。アジアですとタイ、中国、韓国、台湾などは2種類以上の研究ネットワークが存在していて、それを管轄する上の省庁が分かれていますので、真ん中に大きな壁があって、お互いにうまく話ができない場合がありますが、それぞれの配下の研究者と共同研究をしますので、気を使います。

海外の方とのやり取りはネットワーク上でされるのですか?

ネットワークの専門家ほどネットワークの怖さを知っていますので、本当に重要な情報はメールとかインターネット上では流しませんね。現地に乗り込んで初めて状況がわかることがありますし、面と向かって話すことで本音が聞けることもあります。状況を見て、どこでもって直接交渉に乗り出すか、機会を見ていますね。また、会うことで親近感が湧くこともあるし、実際に会ったら本当の問題点が別のところにあったとわかることもあります。意外ととんでもないところに問題点があって、「それだけやればよかったのか」ということが会ってわかったというようなこともありました。

大学時代は何を勉強されていたのですか?

システム工学を勉強していました。ちょうどインターネットが起きかかった頃ですね。まだ相互接続のネットワークが極めて珍しい状況でした。私はコンピューターは使っていましたが、コンピューターを使って通信をするというところまでは至ってなかったです。通信をするようになったのはNICTに入ってからです。当時の通信総合研究所に入所した時、たまたま配属された研究室が、当時、所内で唯一インターネットをやっている研究室でした。入った時はインターネットについてはほとんど何の知識もありませんでした。そこで鍛えられましたね。1989年のことで、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)が有名になる前です。当時、アメリカのMITから招いた研究者から「接続がすごく遅いのだけれど、設定が間違っていない?」と言われたのですが、その頃は専用線サービスもなかったので、私がいた研究所では64KBPS、学校や家庭のISDN回線並みの回線で一つの研究所を丸ごと賄っている状態でしたから、当然と言えば当然ですよね。

その頃に、現在のネット社会の状況を先生ご自身、予想されていましたか?

高速通信はできるだろうとは思っていましたが、最も予想と違うのは無線通信、モバイルの通信形態です。当時のSF映画を見ても、一番予想が外れているのは、携帯電話がこんなに普及して、固定電話がこんなに姿を消すということではないでしょうか。10年前と比べても、携帯電話を含めて、みんながインターネットに自由にワイヤーを使わないでアクセスできるというのは予想できなかったですね。この前の震災の時も、みなさん、スマートフォンで地図を見て、自宅に帰る方法をさがしていましたよね。昔だったら、大きな紙の地図を道で広げて、今、自分がどこにいるのかを探していたと思うのですが、あまりそういう光景は見なかったですよね。それを見て、世の中変わったなと思いましたね。

大学ではどうしてシステム工学を学ばれたのですか?

大学に入ったけれど、じゃあ何をしたいかというのは中々見えなかったですね。システム工学を選んだのも、コンピューターをやっていたほうが楽しそうだなという動機でした。大学に入った頃にアップル2が出て、いわゆるマイコンですね、キーボードがついた少し易しそうなものにコンピューターが変わっていきました。マッキントッシュは当時100万円くらいしましたから、そう簡単には買えませんでしたが、憧れではありましたね。当時はコマンドを打つのが当たり前でしたから、マッキントッシュを初めて見た時は驚きましたね。

研究活動についてお聞かせください。論文はやはり英語で書かれているのでしょうか?

あんまり論文は書かない方なのですが(笑)、今回校正していただいてものも含めて、最近は英語で書いていますね。というのは、ネットワークの関係者の人たちから「日本人の英語論文があまりに少なすぎる。論文を書く際には、できるだけ英語で書いてくれ」としょっちゅう言われていまして、それで英語で書くようにしています。日本人研究者の中にも英語で書かれている方はたくさんいますが、全体としては日本語論文が多い。日本人研究者全体として100%の成果が海外に伝わってはいないと思います。その点では非常に損をしていますね。インド人は公用語として英語を使っていますし、中国人はよく海外に出ていく人が多くて、出た後は必死で英語で書いていますよね。中国・インドの地位が上がってきている気がします。

英語論文を書く際に苦労されている点は?

ボキャブラリーが少ないということですね(笑)。語彙が少ない。校正をしてもらって、こんな言い方があったんだとよく教えられますね。英語を母国語にしている人からすれば、もっと簡単な言い方があるのに、回りくどい言い方をしているなと思われているかもしれません。最近、メールを書いた際、「停電=BLACKOUT」という単語が思いつかなくて、明かりが消えるというようなことを長々と書いたのですが、「BLACKOUTのこと?」と一言、相手から言われまして、「確かになあ」と思いました。

英語論文を書く際、気をつけていることはありますか?

文法的に正しい文章を書くということですね。国際ネットワークでは英語が話せないとやっていけないのですが、研究を始めた当時は英語が全然できなくて、相手が何を言っているのか90%以上わからない、非常につらい日々が続きました。そんな時にアメリカ人の友人から「お前の英語は下手だけど、文法を良く理解しているのはわかる。正しい文法で英語を話すと、相手はその人に教養があると認識する。どんなに流暢な英語であっても、文法がひどいとその英語と同じようにしか認知されない。話す時にも書く時にも、文法の正しい英語を使えば、相手はその人を教養があると思うようになる」と言われました。それ以来、文法的に正しい英語を使うように留意しています。

校正会社はどのような基準で選んでいらっしゃるのでしょうか?

一つは、いろいろなフォーマットの文書を受け付けてくれるかどうかですね。もちろん、校正の質の問題もありますが、こちらの希望するフォーマットの原稿を受け取ってもらえないと、フォーマットの変更だけで1日かかってしまいます。それでは無駄が多いので、受け取ってくれるファイルの柔軟性が高いとありがたいです。私は昔からコンピューターを使っているせいか、今でもTeXを使っています。ですので、TeXを受け付けてくれるといいですね。また、見て頂いた後に、どこをどういう理由で直したというような、きめ細かなコメントが付いているとありがたいですね。もちろん、納期が早いというのも重要ではありますが、それは出す方の責任もありますので・・・。投稿締切の3日前に原稿を上げて、翌日までに校正してくれというのも無理がありますよね。

最後に、今後の抱負をお聞かせください。

研究ネットワークがようやく南アジアまで広がってきましたので、今、やろうとしているのは南アメリカや中央アメリカにネットワークを広げていきたいですね。もともとそこにも研究ネットワークはあるのですが、日本では天文学以外は割と疎遠でして、ブラジルが今、伸びてきていますが、ブラジル以外でも南アメリカや中央アメリカの可能性のある国々にネットワークを広げていきたいですね。また、中央アジア、それから中近東にそろそろ手をつけていきたい、研究ネットワークを引いていきたいです。


北村先生、お忙しいところ興味深いお話をありがとうございました。日本と世界を繋ぐ学術ネットワークの設計者として、これからのご活躍を心より願っております。

独立行政法人
情報通信研究機構

テストベッド研究開発推進センター

テストベッド研究開発室

北村 泰一 先生

プロフィール

東京都出身

早稲田大学理工学部、早稲田大学大学院を修了後、通信総合研究所に入所。現在、独立行政法人情報通信研究機構テストベッド研究開発推進センター勤務。趣味は「コンピューターを使いやすくすること」