英語論文の出版における航海術(書評)

英語論文の出版における航海術(書評)

本記事は、カリー(Curry)氏とリリス(Lillis)氏による著書、「A Scholar’s Guide to Getting Published in English: critical choices and practical strategies1(学者のための英語での論文出版の手引き:重要な選択と実践的戦略)」の書評です。同書は、ジャーナルへの出版に与えた意義において、デズモンド・モリス(Desmond Morris)氏がその著書「The Naked Ape(裸のサル)」で人類に与えたものと同等の意義を持つものです。モリス氏は動物学者の視点から人類を観察しましたが、カリー氏とリリス氏は、特定の社会的文脈において、(彼らの言葉でいうと「テキスト・エスノグラフィー」的な方法を用いて)出版のための学術的テキストが生み出される過程を考察しました。モリス氏は、人間という動物を描写して人間の際立った特徴の起源を考察することに力を注ぎましたが、カリー氏とリリス氏は、読者の出版での成功を願っています。

カリー氏とリリー氏は本書の主な目的について「出版を望む人、あるいはその支援者に対し、ヒントや情報、実践的アドバイスを提供することです。とくに、英語圏外で執筆活動をしている、英語での出版を望んでいる学者に向けて書きました」と述べています。(つまり、エディテージ・インサイトの読者向けというわけです。)本書は、実体験と、学術出版の社会学的研究に基づいています。用いられた資料は次のとおりです:複数の国の12機関に所属する学者への60回に及ぶ訪問で集めたフィールドノート、1200件のテキスト、これらテキストに関する研究支援者ら(同僚、査読者、編集者)とのやり取り500件、学者との文章のやりとりによるインタビュー250件、学術的な部門や機関からのデータ、国家政策関連文書など。

出版のための手引きとはいうものの、本書はジャーナルに投稿する論文の書き方の方法論だけを述べた本ではありません。そのようなハウツー本は、すでに数多く存在します。本書の主張は、「(本書を含めた)様々な研究によると、必ずしも英語ができるということが、英語を媒体とする出版で成功するための鍵とはならない、ということが示されている」というものです。本書が他の本と異なるのは、「出版のための学術的な執筆方法に必要な言語的及び修辞的戦略に注目するのではなく、学者が、学術出版にとどまらず、より大きな社会的実践、政治、ネットワーク、情報源(リソース)を探求する一助となることを目的としている」という点です。

ここでは、「探求」という言葉がふさわしいでしょう。なぜなら、本書は、「出版される(あるいはされない)テキストの筋道を理解するために、テキストの来歴を(再)構築する」ことにより、まさに「探求」を奨励しているからです。実際、「出版プロセスにおける筋道と時間を理解する」と題されたある章では、若い学者達に、「ジャーナルに論文を出版することは、何ヶ月、時には何年もかかることのある、延々と続く長いプロセスである」ということを警告しています。(同書には、2005年にようやく出版されたある論文は、2002年の6月に投稿されたものだったという例が載っています。)

このような実録には、インタビューや、著者と査読者および編集者とのやり取りからの引用が含まれていることも多く、これが同書の大きな強みとなっています。学者が学術出版の営みについて認識し、理解するのを助けるという主目的を果たすのに、大いに役立つはずです。ですから、色々な意味で、本書はジャーナルに論文を出版する社会学的手引きといえるでしょう。この場合の社会的営みには、以下のようなものが含まれます。研究発表や出版につながるプロジェクトに参加する、プロジェクトやテキストに対する協力を交渉する、学会やその他の場所で学会やネットワークに参加する、ある論文の目標にふさわしいジャーナルを選ぶ、特定のジャーナルへの関心と対話を伝える文書を考える、決定権のある人々などからのフィードバックを理解し、返答する。本書は、「学術出版の営みおよび学者が判断する重要な選択、そして学者が採用する実践的な戦略を可視化すること」を目的としています。

全章を通して、構成は以下のように統一されています。章のテーマ/データ、質問とコメント/自分の実践について考える/将来の行動に向けた提案/役立つ情報源/関連する研究(別の学問分野、あるいは他地域の文脈におけるもの。各章末に「情報ボックス」があり、その章の主要テーマに関する予備知識を提供している。)

データや資料のほとんどは、教育学や心理学関係のものであり、また、地理的に限定されたエリア(ハンガリー、スロバキア、スペイン、ポルトガル)からのものです。それでもなお、得られる教訓は普遍的で、他の学問分野や地域にも十分に当てはまります。

つまり、本書はすべての著者に役立つ情報源だといえます。学術出版という不確かな荒波の中を航海する際の、頼れる1冊だと言えるでしょう。

[1] Curry M J and Lillis T. 2013. A Scholar’s Guide to Getting Published in English: critical choices and practical strategies. Bristol, UK: Multilingual Matters.

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