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「研究の神髄は窮すれば通ず」小山卓史先生(立川病院循環器センター)

Editage Insights | 2014年1月23日 | 5,405 ビュー
小山卓史先生

小山先生のご経歴とご研究内容を教えてください。

慶応義塾大学医学部を昭和60年に卒業し、内科に入局しました。ここで2年間の臨床研修を終えた後、浦和市立病院(現さいたま市立病院)でさらに2年間の臨床研修を行い、その後に慶応大学の呼吸循環器内科に入局しました。
当時、循環器領域では「再灌流傷害」が研究のトピックで、私の研究人生もそこからスタートしました。急性心筋梗塞においては、閉塞した冠動脈の血流を早期に再開しないと心筋細胞は死滅してしまいます。しかし、血流を再開する行為自体が細胞を死滅させてしまうという現象があり、場合によっては再灌流した心筋組織の半分以上がそれによって死滅してしまいます。これが再灌流傷害と呼ばれる現象で、現在でもこの問題は世界的には解決しておらず、そのために急性心筋梗塞の再灌流療法による治療の効果が限定的なものとなっています。

 

それはいつ頃ですか?

医師になってから5年目の慶応大学に戻ってすぐの時期です。私は、国立小児病院内に併設されていた小児医療研究センターで研究をする機会をいただきました。そこでは我々の大学の大先輩で、元米国ミシガン大学薬理学教授の明楽泰先生がセンター長を務めておられました。私は明楽先生の直接の御指導をいただいて研究を開始することとなりました。そこで、明楽先生が浜松フォトニクスと共同で創り出した、細胞内カルシウムイメージング装置を使って再灌流傷害の研究が始まったわけです。バラバラに単離したモルモットの心筋細胞を使って虚血再灌流実験を行い、わずか3ヶ月で結果が出てしまいました。そこから得た結論は、当時の定説とは全く異なったものでした。

 

3ヶ月で結果が出てしまうなんて、すごいですね。

これは、明楽先生が創り出された装置が既にあり、さらにその装置で安定した結果が出せる状況が既にあったためです。私はその上に乗っかって結果を出させていただいただいたわけで、そのことだけをとらえれば、私はラッキーであったと思います。しかし、その後の道のりは平坦ではありませんでした(今もそれは同じです)。私は、この実験結果をジャーナル「Circulation Research」に投稿したのですが、あえなく不採択となりました。その時代の定説と違うことを主張する論文は、なかなか採択されにくいものです。明楽先生の米国時代に培った人脈の助けもいただき、その後何とか「American Journal of Physiology」に掲載してもらうことができました。しかし、当時の定説と違うことを論じた私の論文は、殆どの研究者からは今も無視されたままでいます。

 

そのような状況の中、どのようにご研究を進めたのでしょうか?

私はその論文を引っ下げて(当時は無視されているとは認識していませんでしたので)、米国ユタ大学のWilliam H. Barry教授の研究室に92年から94年まで留学しました。しかし、私と最も考えが近いと思って決めた留学先でしたが、残念ながらBarry先生も私とは違う考え方を持たれていました。私は雇われの身でしたから、当然のことながらbossの意に反する研究はできず、自分の考えを具現化するような研究は全く行えませんでした。私は第一義的には臨床医ですから、研究者との二足のわらじはこの留学の成否で、どちらか一方に決めることを心に決めて留学に出ました。

ユタ大学の研究室で結果を出すことができなかったことで基礎研究を続けることをあきらめ、帰国後はもっぱら臨床医としての道を歩み続けました。ただ、再灌流傷害という現象に対する探究心は消えることは無く、臨床の現場にあっても、常にそうした目で再灌流治療後に起こる現象を見つめていました。殆どの循環器内科医は、この血管をどうやって通していくかということに最大の興味があるのですが、私はそうではなく、血管を通した後に何が起こるのかということに、より大きな興味を持っていた変わり種の循環器内科医だったわけです。それはやはり、たった3ヶ月で出した結果ではありましたが、臨床医の感というか、自分が出した結果に絶対に間違いはないものと信じていましたので、いつかそれが正しいと証明するチャンスを、ぼんやりとですが、秘かに待ってはいました。

 

新しい治療法で研究成果をだすも、論文掲載までの長い道のり間違いないという確信をもって臨床医としてご経験を積まれたのですね。

2000年代に入り、私をそれまで苦しめてきた再灌流傷害のメカニズムに関する当時の定説が、複数の大規模臨床研究できっぱりと否定されました。私の書いた論文は無視されていましたから、その後の世界の研究の流れはミトコンドリア真犯人説へと向かい、私からすればあらぬ方向に研究の流れが向かっていっているように見えました。ますます真実の解明から遠のいてしまっているとも感じました。すでにその時、私は基礎研究から離れて久しかったため、実験を簡単に再開することもできず、自分の考えが正しい事を証明したいと思ってはいましたが、昔のデータを引っ張り出して、これが正しいと主張しても誰も聞く耳を持ってくれるはずもありませんでした。

 

そうしている間に、「ポストコンディショニング」という、新しい治療法が登場してきました。急性心筋梗塞の再灌流療法においては、通常、バルーン操作で閉塞した冠動脈の血流を一気に再開させてしまいます。一方、ポストコンディションニングと名付けられた方法では、同じバルーンを用いてバルーンの開閉操作により、血流を一気にではなく断続的に再開します。「1分開いて、1分閉じる」を4回繰り返します。それにより、心筋梗塞サイズを大幅に縮小することができたというヒトでの研究結果が報告されました。2005年のことです。これは私がモルモットの単離心筋細胞を用いて行った実験結果から得られた知見から説明できる現象であると思いました。ポストコンディションニングは、再灌流にともなって起こる、心筋組織に蓄積した乳酸の洗い出しを遅らせる操作であると直感しました。そして、自分でもその方法を実際の心筋梗塞の治療で行ってみました。しかし、報告されているほどの良い効果は得られていないという印象でした。その後の国内外で行われた追試の結果を見ても、ポストコンディショニングの心保護作用を一貫して確認するには至っていません。

 

ポストコンディショニングでは良い結果を得られなかったとのことですが、小山先生の治療法とはどのような方法ですか?

私は、ポストコンディショニングに心保護作用が本当にあるとすれば、それは乳酸がkey playerになると思っていました。ですから、ポストコンディショニングの心保護作用をより確実にするために、乳酸の洗い出しを一層遅らせることはできないかと考えたのです。断続的な血流の再開だけではそれには不十分であり、短時間の血流の再開毎に流し去られる乳酸を毎回補って、また新たな短時間の虚血に入るという方法を考えだしました。また、初めからいきなりたくさんの乳酸を流し去らないように、短時間の血流の再開は10秒から開始し、20秒…、60秒というように、間隔を少しずつ延ばしていく方法を取り入れました。そして、その間を埋めるバルーン閉塞による短時間虚血はすべて1分としたのです。乳酸の補給は、短時間再灌流の終わりに20-30 mLの乳酸リンゲル液を冠動脈の中に直接打ち込んで、バルーンを膨らませて上から蓋をするようにして、乳酸リンゲル液を虚血心筋組織内に封じ込める方法を取りました。それにより、できるだけ組織の乳酸の濃度を下げないようにしながら、組織の酸素化だけを進めていくようにしたのです。この方法は、1例目から大成功でした。そしてその後のすべての治療例で、たいへん良い結果が得られています。

通常の治療法と比べてどのように違うのでしょうか?

通常の治療法と比べ、この新しい方法で治療を行った患者さんでは、心筋組織の隅々まで行き渡る極めて良好な微小循環血流の回復が得られます。心筋梗塞の大きさを反映する心筋逸脱酵素の上昇も低く抑えられ、再灌流に伴って通常出現する不整脈も殆どみられません。また、再灌流に伴う胸痛の増強や心電図変化の増悪も極めて軽度に抑えられます。再灌流療法に伴って生ずるあらゆる悪影響が、一掃されているような印象です。

 

お書きになった論文や学会での発表の反響はいかがでしたか?

はっきり申し上げて、めちゃくちゃ悪かったです。今回の私の仕事は「再灌流傷害」の議論を20年前のレベルに引きずり戻すことになります。ですから、20年以上この分野で研究成果を積み上げてきた研究者の方々にとっては、受け入れがたいことであるのだと私なりに理解しています。そのためか、私の論文は送った端から落とされ続けました(全部で15回)。米国心臓協会での口述発表では、技術的な事だけをことさらに取り上げて、厳しい口調で攻撃してくる著名な先生もおられました。今回論文が掲載される「Cardiology」でも、当初は不採択の決定でした。しかし、editorial managerに粘り強く抗議をし続けた結果、「Letter to the Editor」での採択に漕ぎ着けました。

私の研究の歴史は、5年目で大学に戻った時から始まり、3か月間で最初の結果が出てしまい、簡単に結果が得られすぎてしまったせいか、その後は大変長い道のりになりました。正直、諦めかけてもいましたが、この分野の研究の世界の風向きの変化を感じとることができ、それがきっかけで再挑戦することを決めました。

 

研究の風向きが変わるまで、長い道のりでしたね。

実は、本当のきっかけは、循環器内科医としての臨床での行き詰まりを感じていたことにありました。病院勤務医であっても、常に新しい事に挑戦していかなければ未来が開けません。年齢的に、技術を高めることが困難な年齢に差し掛かってきたときに、「自分に残された能力の中で、さらに何ができるのか」を考えるようになりました。その時思い至ったのが、再灌流傷害の問題にもう一度臨床の現場で取り組もうということでした。時代のかすかな追い風も感じとっていましたし。「窮すれば通ず」です。私の提唱する治療法は、まだたくさんの人に施された訳ではありません。これからもまだ長い道のりが続きます。そして、この治療法が本当に良いものであることが証明された時に、「Letter to the Editor」として掲載された私の短い論文が、光を放ってくるのだと思います。

 

英文校正は強い味方エディテージをお使いになって頂いておりますが、いかがでしょうか?

英語の論文を書き始めた頃は、英文校正のサービスは高価でしたので、指導いただいた先生に直してもらい、英文校正を外に依頼する事はありませんでした。その後、しばらくのブランクを経て、再度英語論文を発表するにあたっては自身の英語では通用しないことを、今回の論文の一本前の論文で思い知る事となりました。初めてエディテージを利用したのはその時で、大変リーズナブルな価格で丁寧に校正してもらい感激いたしました。お陰でその論文の方は、英文校正いただいた後は一発で採択となりました。エディテージの校正は、ただ校正を加えるのではなく、私が初めて英語の論文を書いた時に小児医療研究センターの明楽先生に直して頂いた様な、指導してもらいながらの校正であったためたいへん感激いたしました。これほど強い味方はないなと実感し、今も本当に頼りにしています。

 

スタンダード英文校正とプレミアム英文校正をお使い頂いております。どのように使い分けをされていますか?

新規の研究内容を論文にした時はプレミアム英文校正が絶対にいいと思います。非常に丁寧で多くの適切なアドバイスをいただけます。必ずプレミアム英文校正に出すようにしています。プレミアム英文校正には一年間の無料再校正のサービスが付いていて、申し訳ないと思いながら、会社の収益が出ているのかと心配しながら、利用させていただいています。大変ありがたいです。スタンダード英文校正は、学会の抄録などの短い文章の校閲の時に使うようにしています。

 

研究の神髄は「窮すれば通ず」若手の研究者にアドバイスはございますか?

私は研究を途中で一度は諦めたので、偉そうな事を言える立場にはありません。臨床医が、臨床の合間に研究を続けるのはなかなか大変です。しかし、常に新しいことに挑戦していかないと生き残ることができないのは、病院勤務医も同じです。研究をしていれば、それもいずれ武器になり得ます。「芸は身を助ける」という事でしょうか。それが今、私にとっては最大の武器になりつつあるのかもしれません。また、若い時期に基礎研究に携わった経験は、その後臨床を続けていく中で、さまざまな疾患の病態のとらえ方が違ってくると感じています。その側面もたいへん大事だと思います。

正直申し上げて、研究はその過程においては非常につらいものです。結果が出ないことが殆どですから。でも「窮すれば通ず」です。そして逆もまた真だと思います。苦しまないでいい結果がでることは、まずありません。苦しい中でも我慢して努力し続けていると、思わぬ方向に活路が開けてくるということは少なからずあるようです。

 

では最後に今後の目標を教えてください。

この新しい治療法が、本当に患者さんのためになる良い治療法であることを証明し、そして少しbig mouthになりますが、米国心臓協会の急性心筋梗塞治療のガイドラインに取り入れてもらうことを目標としています。

 

小山卓史先生のプロフィール:1985年慶応義塾大学医学部卒業。1992年米国ユタ大学循環内科にて、リサーチ・フェローとして、William H.Barry教授のもとで培養心筋細胞での虚血再灌流傷害の研究に従事。その後、さいたま市立病院医長等を経て、2002年より慶応義塾大学医学部客員講師、2011年より現職の国家公務員共済組合連合会立川病院循環器センター部長。 趣味はゴルフ、スキー、フライ・フィッシング。 好きな言葉は“Facts are the enemy of truth”。

 

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