「現代のニーズに応える」竹前理映子先生(西東京歯科衛生士専門学校学校長)

「現代のニーズに応える」竹前理映子先生(西東京歯科衛生士専門学校学校長)

先生は公衆衛生学がご専門ということですが、どのような研究をされているのでしょうか?

杏林大学の公衆衛生学教室に所属させて頂いて、QOL (Quality of Life)を中心に研究をしています。QOLとは日本語に訳すと「生活の質」ということですが、医療を行う上ではただ治療を行うだけではなくて、患者さんのその後の生活をいかに心地よく過ごして頂くかということを考えながら医療を行っていかなければなりません。ただ、その生活の質をどう評価するかというのは、実はとても難しいことです。物差しで測れるものでもないですし、人によって価値観も全く違いますから。そういった生活の質、QOLを評価する方法がいくつかありまして、杏林大学に所属されている先生がHealth Utilities Index (HUI)というツール(測定方法)を用いて健康効用理論を研究されていることもあり、そのHUIを用いて治療におけるQOLの変化を研究しています。また、HUIを用いることは、生存年数とQOLの両方を考慮したQALY(質調整生存年)を算出することができるため、今後費用効用分析を行うことができ、医療経済評価に役立てることが可能となります。最近では、HUIを用いたQOLの評価と合わせて、General Health Questionnaire (GHQ)という精神健康度を測る調査票も用いて、インプラント治療が患者さんの生活の質やメンタルにどのような効果を及ぼすかということについて研究しました。

 

治療した歯だけを見られているわけではないということですね?

その治療を受けたことで、生活の質やメンタルにどのような効果や変化があったかということを見ています。精神健康度についてのGeneral Health Questionnaireによって患者さんのメンタルの状況を見て、一方で生活の質をHUIで評価しました。HUIは、1. Vision, 2. Hearing, 3. Speech, 4. Ambulation, 5. Dexterity, 6. Emotion, 7. Cognition, 8. Painの8つの寄与領域で評価する包括的指標です。Global scoreと共にSingle scoreの評価も行います。

 

インプラント治療のケースでは、何人くらいの方を対象にされたのですか?

120人を対象としました。HUIの項目で、聞くとか見るとか話すことや認識力といった項目は一般的に若い人はあまり変化しづらく、高齢の方のほうが変化が出やすいです。今回の研究では対象の方の年齢を細かく絞ることができなかったので、今後は更に母集団を増やして細かい年齢調整を行い、調査できればと思っています。

 

全然関係ないんですけど、プロ野球選手でバッティングの調子が悪くて、実は歯のかみ合わせの悪いことが不調の原因だったとか聞いたことがあるのですが、それって本当ですか?

あり得ると思います。今、お話されたことはスポーツ医学の範囲なのですが、噛み締める力によって発揮される力が大きく変わってくると言われています。まず脳への刺激が違いますね。噛むことで脳に刺激が行き、認知症が改善されるということもあるのです。

歯があること、噛めることももちろん大事で、自分の歯が一番なのですが、歯が全くない人にとっても噛むことは大事です。実際にあったことなのですが、付き添いの方と一緒に車いすに乗って治療にいらしていた人が、入れ歯をしっかり入れて、十分噛める状態にして「次回、調整しましょうね」といって、その次にいらしたときには、その方、ご自分で歩いて来られたんですね。会話もしっかりされていて。噛むことはそれだけ刺激になるということです。

 

先生の歯もおきれいですね・・・。

矯正治療しました・・・。もう一つ言えば、人は食べないと生きていけないですよね。食べることは絶対しなければいけないのですが、たとえば歯が悪くてどこかに痛みがあって、自由に噛めない状態になったとします。そうすると、本来なら噛み砕かれたものが食道を通過して胃に行くのですが、痛くてあまり噛めないまま飲み込みを繰り返していくと、食道がどんどん傷ついていくんです。そうすると食道がんのリスクも上がってきますから、歯だけの問題ではないんです。

 

先生は研究者である一方で、学校の校長さんでもいらっしゃるそうですね。

はい、西東京歯科衛生士専門学校の学校長をしています。昭和54年開校で、今年で33年目になり、これまで1,200名以上の歯科衛生士を世に送り出してきました。開校以来、羽村市に学校があったのですが、歯科衛生士学校の修了年限が2年制から3年制になりまして、校舎を大きくする必要が生じたため、3年前にこの昭島に移転してきました。

 

33年にしては校舎がピカピカだなと思っていましたが、そういうことだったのですね。生徒さんは何人くらいいらっしゃるのですか? 女性の方が多いようですが。

1学年80人です。本校は女性のみに限定しております。歯科衛生士は男性でももちろん、なれるのですが、数はすごく少ないですね。

 

そう言えば、私が痛い思いをした歯医者さんでも、皆、女性だった気がします。何か違いはあるのでしょうか?

歯科衛生士さんの役割は予防処置、保健指導、診療補助の業務を中心にいろいろあるのですが、患者さんが接しやすい、歯医者さんには怖くて言えないけど歯科衛生士さんには言える、というような身近な立場になるんですね。その場合、女性の方が柔らかな雰囲気があります。大人はそうでもないと思いますが、特に子供さんは女性のほうが怖くないというのがあるかもしれません。

 

なるほど。歯医者さんが男で、歯科衛生士さんも男だと、子どもにとっては心細いかもしれませんね。若い人の就職状況は厳しいという報道もありますが、こちらの学校は就職率が良いそうですね。

看護師に比べ歯科衛生士は意外に知られていなかったのですが、最近は知られるようになってきましたね。就職率も本校はずっと100%で、今の時代の就職難を考えると信じられない数字かもしれませんが、理由はいくつかあります。聞いたことがあるかも知れしれませんが、歯科医院の数がコンビニの数を上回るくらいに増加しているのですが、その歯科医院の数に歯科衛生士の数が追いついていないという状況があります。また、歯科衛生士さんの仕事は歯科医院だけではありません。高齢者施設や障害者施設、保健所、大学病院など、いろいろなところで幅広く必要とされている仕事です。今、深刻な問題とされているのですが、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)って聞いたことありますか?

 

すいません、ないです・・・。

誤嚥性肺炎は、繰り返しの誤嚥や特に口の中の汚れが原因で引き起こされます。若くて健康な体の人は口の汚れが入ったくらいでは特に問題ないのですが、高齢の方は嚥下機能が衰え、口の汚れが肺に入ってしまうんですね。肺炎は抵抗力の弱い高齢者にとって大変危険な病気です。日本人の死因は一位ががん、二位が心臓病、三位が脳血管障害で、四位に肺炎がくるんですが、65歳以上の高齢者だけをみると肺炎が断トツの一位なんです。70歳以上の肺炎のほとんどが誤嚥性肺炎であるといわれています。高齢化社会では歯科衛生士の口腔ケアが本当に大切です。高齢者施設もそうですが、医科病院の入院患者さんは免疫力が低下しているので本来ならば医科病院でも歯科衛生士は置きたいところですが、数が足りていないのが現状です。そのため、多くの病院で看護師さんが口腔清掃もしていますが、歯科専門の特殊な機械的口腔清掃器具は使えませんので徹底した口腔ケアには限界があります。特に、手術で全身麻酔を行なう時に、気管挿管といって管を入れて呼吸器具をつけることがあるのですが、口の中に汚れがあると管と一緒に口の汚れが気管に入ってしまいます。入院前の患者さんの口腔ケアは本当に重要です。

 

研究発表についてお聞かせください。先生は学会やジャーナルで活発に研究成果を発表されていますが、論文の書き方はどのように勉強されたのでしょうか?

 

臨床で現場で働いていると、論文の書き方を学ぶ機会も取れないのですが、杏林大学で本当に鍛えて頂きまして、その際、指導医の先生に言われたのは、よりたくさんの論文を読みなさいということを言われました。たくさん読んで、論文の形式や流れ、英語の言い回しを覚えるようにということを教わりました。ですので、習ったというより、読みこんできたという感じです。

 

今回、エディテージを初めてご利用頂き、いかがでしたか?

始めにメールが弾かれてしまってうまくやり取りできないことがあったのですが、エディテージさんの担当者の方にお電話で助けて頂きまして、とても丁寧な対応をして頂き、本当に助かりました。校正の内容も密で、よく専門分野のことを熟知されている校正者だなと感じました。あとは納期が早いところが助かりますね。早ければいいというわけではありませんが、早くて、内容が良くて、コストも手ごろで、「もうエディテージさんだ!」と思いました。

 

ありがとうございます。最後に先生の今後の抱負をお聞かせ下さい。

歯科衛生士は就職率が100%ということで就職に困ることはありませんが、その中でも一生を通じてやりがいを持って、より上を目指していけるよう、卒業後からすぐに即戦力となれる歯科衛生士を育てていきたいです。また、日本の歯科医療を見る上で、グローバルな視点で世界の歯科事情を知りながら日本を見ていける、そういう人材を送り育てていきたいと思っています。そして知識を習得することや予防処置の技術が上手くなることも大事ですが、医療人としての責任感や思いやりを忘れない歯科衛生士になってほしいです。

 
 
竹前理映子先生のプロフィール:
歯科医師、博士(医学)、American Dental Implant Association mastership
趣味:旅行、テニス


 

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