質問: 論文の撤回は研究者の評判にどのような影響を及ぼすだろうか?

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回答:

ジャーナルに撤回の要請を受けたことは残念でした。ジャーナル編集者の要請に前向きに答えてほしいと思いますし、論文は撤回されることを勧めます。撤回すると、データに誤りがあるため、著者とジャーナル編集者間の同意により論文が撤回されたという公告が、読者に伝えられます。

撤回それ自体は好ましいことではなく、研究者としてのあなたの立場にネガティヴな影響を与える可能性もありますが、悪意のない誤りによる撤回は、あなたの評判や将来の助成金受け取り資格に深刻な影響をもたらしはしないでしょう。誤りを認識し、科学の利益のために行動した場合は、とりわけそうでしょう。

撤回には大きく分けて二つの理由があります。(1)悪意のないヒューマン・エラー。例えば、実験データや統計分析の誤りです。(2)学問における不正行為。例えば、利益相反を公開しなかった、ethical protocolsを順守していない、剽窃、があげられます。もうお分かりでしょうが、残念なことに、(1)よりも重大である(2)のケースが増えてきています。不正行為は、科学の文献の価値を非常に傷つけるのみならず、それに関係した研究者の学問上の地位や今後の出世の可能性に対し、不利な影響を及ぼします。不正行為に関わった著者が、不正行為の申し立てを否定し、論文撤回を拒否した場合、事態はさらに悪くなり、著者からの回答について、ジャーナルは非常にネガティヴな意見を発表せざるを得なくなります。これでは、取り返しがつかないほど著者の評判が傷ついてしまうことは疑うべくもありません。

出版倫理委員会(the Committee on Publication Ethics)が発行した、撤回ガイドライン(retraction guidelines)によれば、論文撤回の目的は、著者を罰するためというよりは科学論文の統一性を守ることにあります。ジャーナル編集者がある論文を撤回しようと考える時の根本的な理由は、論文の科学的信頼性を疑う明確な理由があるかどうかということです。

ジャーナルの掲載論文のどれかに信ぴょう性のないデータが含まれていると考える理由が、そのジャーナルの編集者にあれば、はじめに徹底調査が行われます。データの誤りがたいしたものでないのなら、ジャーナルは誤りを指摘した修正公告を出すでしょう。調査しても結論が出なかった場合は、その論文に対する懸念表明(expression of concern)が出されます。データの誤りが深刻なもので、研究結果全体の妥当性に影響を与えるような場合は、最後の手段として撤回という措置が取られます。

おぼえておいていただきたいのは、論文を撤回してもジャーナルには何の利益にもならないということです。実際、撤回公告がたびたび行われると、ジャーナルの評判が下がり、ジャーナルの査読プロセスも疑問視されかねません。ですから今回の場合は、ジャーナル編集者との関係を維持し、論文撤回を認めることを勧めます。次回の助成金申請の際は、正直にジャーナルの撤回公告を示しましょう。そうすれば、撤回が悪意のない誤りであって不正行為ではないということを、助成委員会にわかってもらえます。終わりになりますが、真摯な態度で研究を続け、良質な研究を発表してください。悪意なき誤りによる撤回に何らかのネガティヴな影響があったとしてもそれを克服するのは、何と言っても研究における努力と論文の質なのですから。


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