研究者がオープンアクセス出版を最大限に活用するには

研究者がオープンアクセス出版を最大限に活用するには

ScienceOpenは、2013年にティボー・チェケ (Tibor Tscheke) 氏とアレキサンダー・グロスマン (Alexander Grossmann) 氏が設立した独立系スタートアップ企業で、ベルリン、ボストン、ブタペストに運営拠点があります。ScienceOpenのプラットフォームを支える技術を提供しているのは、Ovitas(CMS-WorkFlow-XMLのソフトウェアを構築する企業)です。ScienceOpenは、科学コミュニケーションのプラットフォームとして機能しており、非公式のネットワークや査読への参加、オープンアクセス(OA)出版など、さまざまな形で利用することができます。また、OA出版の強力な推進者として、従来の出版システムに変化をもたらす原動力として、短い間に信頼を築いてきました。研究者が他の研究者のために査読を行う「出版後査読」が取り入れられている点が、このプラットフォームの特徴です。


今回のインタビューでは、同社についてと、OA出版全般にわたる幅広い話題についてお話を伺いました。出版後査読が科学の迅速な伝達にどう役立つのか、そしてその結果、科学者は重要な問題をどのように解決していけるようになるのかについてお聞きしました。ドーソン氏は、出版後査読は研究の質の悪化につながる、という主張を退けながら、学術出版の抱える大きな問題点について述べるとともに、デジタル技術とソーシャルネットワーク・プラットフォームの潜在性について語っています。インタビューの最後には、若手研究者へのアドバイスも。


ドーソンさんは、生物学での学士号取得後、ドイツ語ドイツ文学の博士号を取得するという興味深い学歴をお持ちです。なぜ進路を大きく変えたのですか?

私は牧場育ちなのですが、子供の頃最初に夢中になったのは本でした。つまり、幼い頃から人文学と科学の両方に縁があったのです。イェール大学での学部時代は、生物学以外にも文学、歴史、美術の授業などを取りました。卒業後、フレッド・ハッチンソン癌研究センター(シアトル)のスーザン・パーカースト(Susan Parkhurst)氏のもとでキイロショウジョウバエの遺伝子の研究を行いましたが、博士課程への出願準備をしていたときにショウジョウバエに対する強度のアレルギーを起こして研究を続けられなくなりました。専門分野の変更を余儀なくされたのです。新しい実験動物の遺伝子について学ぶことは、新しい言語を学ぶようなものなので、この機会に分野をまったく変えて、長年魅了されていたドイツ文学を学んでみようと決めたのです。ワシントン大学での学びの時間はとても楽しく、ドイツ語とドイツ文学を学んだことで、エキサイティングな人生の旅が始まりました。

出版に興味を持ったのはいつでしたか?また、きっかけは何でしたか?

人文学分野で学ぶと、研究対象の主体であるテキストや書物に大いに敬意を抱くようになります。ですから、一大学院生として、出版業界の展望に関する基本的な理解は持っていました。ドイツ人の夫とともにベルリンに引っ越したとき、その地で自分に何ができるかを考えてみて、最初に思いついたところが著名な出版社のDe Gruyter社でした。私は科学的素養のある英語ネイティブなので、ジャーナル出版部門にぴったりでした。私はそこでジャーナル・マネジャーとして働き始めました。そして、教科書編集者、一般的編集者、論説員など様々な職種を経験しながら、出版について多くのことを学びました。


でも、編集者とは、本質的には著者の支援者です。OA運動が順調に成長していくにつれ、著者にとっての最大の利益は、研究論文がCC-BYライセンス(インターネット上で自由な共有が認められるもの)で出版されることだという確信を強めるようになりました。高額な購読料を支払える、ごく限られた読者層しかいない自社のジャーナルでの出版を勧めることに、罪悪感を持つようになりました。そこで、この260年の歴史を持つ由緒ある出版社での名誉ある仕事を辞め、OAの原則に基づいたスタートアップの仕事をする機会が訪れたとき、思い切ってそちらに移ったのです。

ScienceOpenCEOとしての義務とは何ですか?ご自身の関心事は、現在の仕事と、どの程度の整合性がありますか

ScienceOpenのCEOとして、まさに自分がやりたいと思っていた通りのことをしています。戦略的にインフラストラクチャーを変化させることで、科学研究のオープン化を促しています。また、個人レベルでもオープンサイエンスを奨励しています。ScienceOpenは比較的小さいスタートアップなので、CEOは戦略的ビジネスパートナーと近い距離で仕事をしますし、ペーパータオルを買いに行ったり、食洗器から食器を戻したりもしますよ。展望を実現するために、ブダペストやボストンの技術チームと一緒に仕事をし、CrossRef、ORCID、Altmetricなどのパートナーと連絡をとり、顧客である出版社や個人ユーザーと話をしてフィードバックを取り入れたりしています。どこに行くにも、公にはScienceOpenの代表として行きます。この仕事に、心からの情熱をもって真剣に取り組んでいます。

ScienceOpenのように出版後査読を取り入れる取り組みは、ほかでも見られます。ただ一般的に、このようなプロセスを通して発表された研究の質には、信頼性が欠けているように見受けられます。出版前査読と出版後査読は、出版された研究論文の質をいかに高める(あるいは高めない)とお考えですか?

出版後査読の質問については、戦略的に長期的な視点から答えることにしています。周りを見わたすと、研究結果を素早く公開できるプレプリントサーバーが爆発的に増加しています。なぜでしょう?これは、例えばジカウイルスなどの脅威に対する答えは、何年も後ではなく、まさに今このときに必要だからです。プレプリントサーバー上の研究結果を見た他の研究者が研究を進め、論文著者にフィードバックを送るのです。これが、出版後査読の潜在的可能性です。これはすでに進行中のことで、反対意見を述べる人が思っているよりもずっと速いスピードで進んでいます。これは、インターネットの存在によって可能となっていることです。このプロセスは、より効率的でもあります。ScienceOpenでは、このプロセスを形式化する空間を提供し、査読者にフィードバックをした功績を残せるようにしているだけです。


このモデルの査読の質についての懸念があるというのは、その通りです。ただそれは、OAモデルについて、「著者が論文出版のための費用を払うので、質が低い論文しか集まらない」という意見と同じです。今では、そのような懸念は根拠のないものだったと言えると思います。保守的な人の意見というのは、過度に慎重なものであるように思えます。優秀な科学者は、質の低い論文は当然のように無視するでしょう。でも、質の高い宝石のような論文もあるので、それが見つかるようにすることも必要です。南米、アフリカ、そしてアジア各国の研究論文が増加していますが、反対を唱える人々は、これらの地域からの研究論文の質の低さに対しても懸念を表明しています。でも、どこでどのように出版されたのかに関係なく、すべての論文の出版後査読ができる環境を整え、優れた論文が発見されて利用されるようになったらどうでしょうか?出版後査読とフィードバックは、世界中の研究者の論文を改善できるものと確信しています。現在、「質」を定めているのはごく少数のジャーナルと出版社だけです。出版後査読は、これを変えていくことができると思っています。このような民主化を恐れる人がいるのは当然のことです。

ドーソンさんは以前、PLOS ONEの論説員であるダミアン・パティンソン (Damian Pattinson)氏に、「PLOS ONEのようなジャーナルの論文の評価により適したメトリクスを考案できるか」と尋ねたことがあります。同氏とあなたは、学術出版におけるインパクトファクターの誤用について議論していました。これについて、今、何か発言したいことはありますか?

私は、インパクトファクターのことはまったく気にしないという立場です。なぜなら、ジャーナルレベルでのメトリクスの重要性は失われつつあるからです。本当に重要なのは研究論文です。論文がどのぐらい引用されたのか、ソーシャルメディアで話題になっているのか、査読が行なわれたのか、Collectionに入れられたのか、政策文書で言及されたのか、ウィキペディアの出典として使用されたのか、などが重要なのです。何年か前はまだ、ジャーナルのインパクトファクターから完全に独立した、著者レベルでの論文引用数に基づいたメトリクスである、h-indexのことを知っている研究者はごく少数でした。今では、自分の論文が出版されたジャーナルのインパクトファクターと同じくらい、自分の論文の引用数を気にする科学者がほとんどです。データマイニングやテキストマイニングが可能な、オープンで体系化された研究論文が増えれば、新しいデータ計算法の開発と相まって、さらに素晴らしいメトリクスが生まれると思います。私はそう確信しています。でも、どんなメトリクスが誕生するにせよ、それは論文ベースで(あるいは論文の一部のデータや方法かもしれませんが)、ジャーナルベースではありません。状況はそのような方向に進んでいると思います。

ドーソンさんは出張も多く、学術出版関連の国際的なイベントに参加しています。そのようなイベントで示された、学術出版に関する共通の懸念はありますか?

ちょうど、バンクーバーで開催された学術出版協会(Society for Scholarly Publishing、SSP)の年次大会から戻ったところで、頭の中は学術出版関係の問題でまだ一杯です。


1本の論文の見つけやすさが、ますます話題の中心になってきています。SSPでは、研究結果を見つけやすくするための永続的な識別子を使うことの重要性が話題になっていました。その好例がORCIDです。論文著者を正確に特定できれば、例えばインパクトを測るメトリクスを作成するのも容易になります。できれば、資金助成団体、研究費番号、研究機関、ライセンス、そして論文のXMLに埋め込まれた機械での読みとりが可能なすべての要素の正規化情報を集めたいと思います。真に優良な出版社は、これらのすべてを提供すべきです。ジャーナルを探している著者には、これらについて尋ねてみることを勧めます。


ビッグデータ、データマイニング、テキストマイニング、機械での読み取りができること、データ出版などのテーマの重要性はますます高まっており、学者、伝達者、学会、出版社の会合では必ず話題にのぼります。インターネットの力を実感させられます。

OAについて興味の尽きない点は、どういったところでしょうか?

それは2点あります。1つめは、学術出版物は、小説家や音楽家、芸術家による創造的な産物とは異なるということです。我々納税者は、知識を創造してもらうために研究者に給与を支払っています。ですから、皆が研究にアクセスする権利があると思うのです。我々はまた、研究者が環境の持続可能性やモビリティ、健康、食の安全性など、大きく複雑でグローバルな問題を解決するために税金を払っています。私たちは、たった1つの地球に一緒に住まなければなりません。ですから、この地球上で生きていく上で助けとなる科学的発展を支援するために、できることは何でもすべきです。革新と発見を加速させるためには、科学者が情報に迅速かつ容易にアクセスできる必要があります。ですから、OAにはおおいに道徳的な緊急性があると思います。海賊版の映画をダウンロードするのとはわけが違うのです。


2つめは、数字を見れば明らかですが、毎年、既存文献に200万本以上の学術論文が新たに加えられており、その数は急増しています。将来的には、科学分野で新しい情報を処理するには、機械での読み取りが大きな力を持つようになるでしょう。コンピューターは、論文を掲載したジャーナルのインパクトファクターを気にすることはありませんが、論文全文を「読み取る」ことができるか、XMLタグを処理できるかどうかは問題にするでしょう。論文を、利用可能な研究文献の一部としたければ、CC-BYライセンス、しっかりしたXMLタグ、そして永続的な識別子が必要となります。OAは論文掲載料(APC)だけの問題ではありません。大きな科学的課題を解決するために、より効率的な情報の流れを作っていくことが重要です。

以前ブログで、「中国にはOAが必要で、OA運動にも中国が必要」と書いておられます。これについてお聞かせ頂けますか?

中国はまもなく、研究開発費でEUと米国を追い越します。先ほど述べたとおり、これは膨大な量の最先端の優れた研究が、現在の学術出版システムに流入することを意味します。「インパクトファクターの高い」ジャーナルからの出版は競争が激しいため、これらすべての研究を吸収することはできません。また、新しいジャーナルは、OAモデルを採用するのが常となっています。さらに、トムソン・ロイター社のWeb of Scienceでは、応募ジャーナルの受付率はおよそ年10~12%だということです。つまり、既存システムに加われる新(OA)ジャーナルは、ごく限られているということです。これでは科学の進歩が滞ってしまいます。中国は、政府助成金を受けた研究成果に対してクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを義務づけ、インパクトファクターよりもOAを優先させれば、OA化を推進できるでしょう。


私が出席した上海の学会では、すべての出版社が「デジタル」と「グローバル」という共通の目標を掲げていました。でも、デジタルの次の段階は、機械での読み取りができることです。そして、グローバル化は、情報の流れが自由になって初めて進みます。論文の膨大な量を考えれば、中国は世界でOA化を進める主要勢力となる可能性を秘めていると言えるでしょう。

論文出版を目指す研究者にアドバイスをお願いします。

論文を掲載するジャーナルを選ぶときは、現実的に考え、キャリアを念頭に置くようにしましょう。私に言わせれば、それはつまり、CC-BYライセンスで出版するということになります。そうすれば、論文が発見されやすくなり、他の人に利用されやすくなるからです。今日では、ほとんどのジャーナルでOAの選択肢が設けられています。テニュア委員会や資金助成機関が論文レベルでのメトリクスに焦点をあてるようになるにつれ、OAはますます重要になります。ScienceOpenで、Altmetricのスコアでの検索結果を分類すると、上位に入るのはほとんどOA論文です。OAで出版すれば、論文が読まれやすくなり、被引用数の上昇や共同研究などにもつながって行くでしょう。


同僚からのフィードバックをもらいやすくするためにも、プレプリントサーバーをうまく利用しましょう。ただ、公開された記録を取り消すことはできず、インターネットには長期記憶があるので、公開前にプロの編集校正者の手を借りて論文を整えることを強くお勧めします。こうすれば、論文がきちんと整った形で公開され、メッセージを効果的かつ確実に伝達することができるでしょう。論文の確認をしてくれる人は、他にもメンター、同僚、共同研究者などがいます。論文を公開する前に、自分で査読をするのです。出版社が全面的に面倒を見てくれるとは思わないようにしましょう。実際、自分の論文の伝達について、自分以上に気にかけてくれる人はいません。そして、ひとたび論文を公開したら、積極的になりましょう。意見を交わし、ソーシャルネットワークで宣伝し、自分のウェブサイトや機関リポジトリ、その他自分の所属するネットワークに論文のPDFを載せましょう。そこから、新しいアイデアが生まれるかもしれません!


ドーソンさん、有益なアドバイスをありがとうございます。インタビューにご協力頂きありがとうございました!

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