「新米査読者は、まずは自分の研究をレビューしてみましょう」

「新米査読者は、まずは自分の研究をレビューしてみましょう」

エドガー・ゲバラ(Edgar Guevara)氏は、CIACYT-UASLPのConacyt(メキシコ国家科学技術審議会)でリサーチフェローを務めています。現在は、光イメージング、機能的結合、分光法、生体信号処理を用いた非侵襲性医療診断を専門にしており、これまで、てんかん、循環器疾患、脊髄損傷、新生児の白質疾患の研究に携わってきました。Mexican National System of Researchers の第1級(Level I)会員としても活動しています。大学院時代はConacytから2件の奨学金を受け、返還を免除されるほどの成績を収めました。また、技術専門家として、遠隔治療プロジェクト(PROINNOVA、2015~2016)や二国間協力プログラム(メキシコ-ケベック、2016~2018)に参加しました。ラス・アメリカス大学プエブラ校で計算・電子・電子機械工学の准教授を務めたほか、タイヤメーカーのメンテナンス管理者およびプロジェクトエンジニアとしての経験もお持ちです。2014年には、審査員から特筆されるほどの博士論文を書き上げ、 モントリオール理工科大学で生体医工学の博士号を取得。サン・ルイス・ポトシ自治大学で修士号(自然科学)を、2003年にサン・ルイス・ポトシ科学技術研究所で学士号(電子工学)を首席で取得しています。


本インタビューでは、ゲバラ氏が民間企業と学術界での経験から学んだことについて伺います。所属先の変更や査読など、研究者のキャリアについて、さまざまな側面からアドバイスを頂きました。


大変興味深い経歴をお持ちですね!電子工学の学士を取得後、応用科学の修士号、生体医工学の博士号を取得されています。専門が変わっていった理由は何ですか?

ここまでの道のりには、紆余曲折がありました。学士を取得後、タイヤメーカーに2年間勤めましたが、反復的な業務が多く、その業界で働く喜びが徐々に薄れていることに気付いたので、学術の世界に飛び込む決意をしました。その後、修士課程在籍中に非侵襲性の医療診断について知る機会があり、生体医工学の道に本格的に進みたいと思いました。今は、この道が私の天職であると思っています。

研究者は所属機関が変わってしまうことがしばしばあり、それはこの仕事をする上での不安要素の一つであると思います。住む街や国さえも変わってしまう場合はなおさらです。ある機関から別の機関に移るに際してのアドバイスはありますか?

所属先が変わることによって生じる第一の問題は、生産性の低下です。これは、書類仕事、新たなシステムへの適応、ライフスタイルの変化、といったことに労力を費やさざるを得ませんから仕方がないことです。この時期に論文の執筆や出版といった作業を行うのは難しいと思います。私がお勧めしたいのは、元の職場の上司や同僚との連絡を絶やさないようにすることです。あるいは、彼らとの共同研究も選択肢として持っておくことです。そうすることで、所属先が変わっても、生産性の低下を最小限に抑えることができるでしょう。海外に移る場合は、研究活動は英語で行うにしても、現地の言葉を習得しましょう。これは私自身の経験から言えることですが、現地語を理解できると、その場所に馴染むのも容易になります。

Mexican National System of Researchersについて詳しく教えて頂けますか?

これは、連邦政府が実施しているインセンティブ・ベースのシステムです。このシステムでは、研究者にそれぞれの生産性に応じた経済的インセンティブが政府から与えられます。研究者に課される責務には以下のようなものがあります:
 

  • 研究を遂行し、出版物(査読付き論文、書籍、特許など)としてアウトプットする
  • 学生と研究員の修士/博士論文の指導を行い、高度な専門性を持った人材を育成する
  • 研究が本業であっても、所属機関で講義などの教育活動を行う
  • Conacytの助成プログラムに提出する研究プロポーザルについて、評価委員会と協力して取り組む


このシステムは全体として、国内の研究を活発化させるためにとても役立っていると思います。

過去に査読付きジャーナルで複数の論文を出版されているので、出版プロセスについてさまざまな経験をお持ちだと思います。多くの若手研究者が、ジャーナルへの投稿から査読を経て最終判定までに要する時間が長すぎると感じているようです。この点についてのご意見をお聞かせください。

平均で数ヶ月かかりますから、私も長すぎると思います。助成を受けている機関からの審査が控えているときはなおさらです!

資格などを含めて、多くのプラスアルファのスキルを習得されています。研究と並行して、どのように時間を捻出しているのでしょう?

学び続けることは、研究者としての仕事の一部だと考えています。進学を検討しる場合や、研究領域を拡げたいと考えている場合、このようなスキルアップはとても役立ちます。私は、知識の幅を拡げたいと常に思っているので、これらに自然に取り組んできました。ですので、資格取得のために研究活動を制限するようなこともありませんでした。スキルアップは、履歴書の価値を高めるためにも重要です。プラスアルファのスキルを習得するための苦労は一時的なものなので、やっておいて損はないと思います。このような経験をすることで、単にスキルを習得できるだけでなく、効率的な時間管理能力が身に付きます。

専門分野の最新情報を把握しておくために、どのようなことをしていますか?

専門分野の最新情報を把握しておくことは、すべての研究者にとってとても大切なことです。私は、出版社や学会のSNS(ネイチャー、サイエンス、Society for fNIRS、OSA、SPIE、IEEE、エルゼビア、シュプリンガーなど)をフォローしています。ここから、科学界の最新情報を得ています。また、Google Scholarには、専門分野に関連する最新論文を推薦してくれる機能があるので重宝しています。

科学を一般に普及させるための取り組みは素晴らしいと思います。詳しく教えて頂けますか?

この取り組みでは、たとえばハリウッド映画などの身近な例を用いて研究を一般の人々に説明するようにしています。スティーブン・スピルバーグの「マイノリティ・リポート」という映画を観て、ある話をしてくれた学生がいました。その映画では、突然変異によって予知能力を得た人間が光ファイバーを通して予言を記録するのですが、彼は、光によって脳活動を再現するというようなことは、私のブログを読むまでは、文字通り「サイエンス・フィクション」だと思っていたそうです。このように、人々に医用光学に興味を持ってもらうには、実例があると良いということを、身をもって知りました。人々が興味を持ちやすい、身近な話と結びつけることで、科学をより身近に感じてもらうことができるのです。

非学術コミュニティ、もしくは納税者たちに科学を身近に感じてもらう必要性は高まっています。この必要性を、研究者はどれくらい認識しているでしょうか?研究者がこのような取り組みに着手することは難しいでしょうか。どのような働きかけが必要だとお考えですか?

私たちは、この重要性を十分に理解しています。しかし、Mexican National System of Researchersの評価委員会には、科学の普及に関する取り組みを評価するような仕組みがありません。したがって、この任務がどれほど重要な意味を持とうと、研究者は論文を発表することに集中するしかないのが現状です。ただし、自身の研究をSNSで発信したり、分かりやすい言葉で説明する方法を模索したり、小さなことでも研究者にできることはあると思います。

査読者としての経験から、ご自身の専門分野で著者がよくするミスとはどのようなものですか?また、それを防ぐ方法はありますか?

経験上、光イメージングを用いた統計分析での誤りが多いように感じます。分析対象内の有意ではない差について議論を進める著者が多く、多重比較の補正が行われていなかったり、p値以外の指標(効果量など)が使われていなかったりする傾向にあります。これらのミスは、生物統計学をしっかりと学ぶことで解消できるはずです。

学術論文の査読を初めて行なったときは、どのような困難がありましたか?新米査読者にアドバイスをお願いいたします。

初めての査読は、緊張もありましたし、苦労したのを覚えています。しかし、何度か経験するうちに、良い査読者としての能力に自信が持てるようになってきました。とは言え、これはすべてに言えることですが、まだまだ学びの途中だと思っています。確かなのは、自分の仕事を批評する能力が上達したということです。個人的には、自身の論文をレビューしてみるのが、新米査読者にとっては良い訓練になると思います。この作業を通じて、査読者の必須スキルであるクリティカル・シンキング(批判的思考)の能力が向上します。


長年の経験で、査読は諸刃の剣であると考えるようになりました。査読のために週の数時間を捧げる必要がある一方で、その時間は、未知の研究方法や応用方法を知る機会になっており、科学者としての知識を深める時間にもなっているからです。したがって、査読に費やす時間は有意義なものであると考えています。

研究者、著者、査読者、コンサルタント、エンジニア、指導者など、さまざまな役割を担っておられますが、もっとも力を入れている役割は何ですか?もっとも情熱を注いでいる役割はどれでしょうか?

研究と指導には同じくらい情熱を注いでいます。以前は指導役に負荷がかかりすぎていたので(学期ごとに平均3講座以上を担当)、少しバランスをとるようにしました。今は良いバランスを保ちながら、すべての役割を等しく楽しんでいます。



ゲバラ氏、とても興味深いお話をありがとうございました!

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