学術界における新手の不正行為に対抗する取り組み

学術界における新手の不正行為に対抗する取り組み

[本記事はウォルターズ・クルワー(Walters-Kluwer)社の著者向けニュースレター、Author Resource Reviewに掲載されたものを、許可を得てここに再掲載したものです。]


2015年3月、出版倫理委員会(COPE)は、第三者が査読プロセスを巧みに操作する手口について注意を喚起する声明を発表しました。声明の準備に際し、ウォルターズ・クルワー社を含む出版社団体は、過去6ヶ月間に業界全体で数百本という論文を撤回するに至った経緯をCOPEに伝えました。著者に論文のアクセプトを確約した校正サービス会社が、投稿プロセスにおける抜け穴を巧みに利用して「偽査読者詐欺」という行為を働いていたのです。


偽査読者詐欺

オンライン投稿システム(例 Editorial Manager、ScholarOne、Manuscript Central等)は、学術出版の発展に重要な役割を果たしてきました。過去には、印刷された論文原稿をジャーナル編集室に3部送付し、査読依頼をファックスで受け取り、論文の追跡をエクセルファイルで行なっていた時代がありましたが、オンライン投稿システムのおかげで、現在は最小限のスタッフで、年間に何千本も投稿される論文を管理できるようになりました。これらのシステムのおかげで、編集者は査読者を探しやすくなり、査読プロセスを迅速化して著者のニーズに応えられるようにもなりました。そのような機能のうちの1つに、著者が投稿時に査読者を提案するというものがあります。


直感的には違和感を覚える方法かもしれませんが、多くのジャーナルは、きわめて妥当な目的でこの方法を利用してきました。査読者を探すのに困難を極めることが稀にあるため、将来の論文投稿に備えて、査読候補者のリストを増やすというのがその目的です。以前は、推薦された査読者が関与する不正行為が利益相反の根っこだと考えられていました。つまり、著者が、偏った査読行為で個人的利益を得る同僚を査読者として推薦するというケースです。一方、「偽査読者詐欺」はより一層悪質な行為です。


1. 校正サービス会社が顧客(著者)に代わって論文原稿を投稿する。


2. 投稿の過程で、校正サービス会社が複数の査読者を推薦する。


3. 推薦された査読者は、投稿された論文の査読にふさわしいと思われる、実在の研究機関に所属する実在の人物である。しかし、その査読者候補のメールアドレスを偽装し、研究機関のメールアドレスではなく(例えばアドレスの末尾が‘.edu’でないもの)、gmail.comやyahoo.comのアドレスを記載する。校正サービス会社は、誰でもあっという間にアカウントが取得できてしまうことを悪用し、実在する大学教員の名前を使って偽のアカウントを作成している。


4. 推薦された査読者にジャーナルが依頼メールを送ると、そのメールは偽アカウントに届き、その結果、校正サービス会社自体が投稿論文を査読する立場になる。


ジャーナルにとっての朗報は、この問題の解決法は単純だということです。「査読者を推薦する」という選択肢をなくせばよいのです。しかし、著者自身がこのような不正をどこまで認識しているのかははっきり分かっていませんが、著者の立場にある人も、校正サービス会社が責任あるサービスを提供しているのか、それともこのような不正行為に手を染めているのかどうかを見極めることが重要です。また、定評ある校正サービス会社なら、この業界の評価を台無しにしかねない会社を駆逐し、公にしたいと考えるはずです。


責任ある出版リソース連合(CRPR)

学術界での不正や悪質な校正サービス会社に関連した事例が増加していることを受け、学術出版界の主要グループが、以下を目的とする連合を結成しました。


「本連合の目的は、最新の出版規定および倫理基準に準拠したサービスを提供している業者を研究者が見極められる手段を提供することによって、多くの組織の継続的な取り組みを支援することにあります。本連合は組織に対し、業界における長年の基本的なベストプラクティスとして連合が認めた行動についての審査プロセスおよび遵守状況の妥当性確認と検証のためのフォローアップ期間を通じて、認証を行います」


具体的には、同連合が正当と認めた校正サービス会社に検証済みおよび活動中であることを示す認定証(バッジ)を付与することで、著者や出版社に対する保証としています。この認定証は各社のウェブサイトに表示され、同連合による検証過程で得られた情報に直接リンクしています。連合の会員になるかどうかは任意ですが、著者がどの校正サービス会社を利用するかを決定する際にこの認定証の有無が判断基準となり、ひいては業界のベストプラクティスがすべての校正サービス会社の運営基準となることが期待されています。


まとめ

査読プロセスとそこで利用されるツールは、関係者が悪用しないことが前提とされています。著者は、利益相反や重複出版がないことを明言するよう求められており、編集部および出版社は、著者の回答を正直なものとして受け止めます。この信頼関係を破壊しているという意味で、道義的問題がある校正サービス会社による昨今の問題には、非常に大きな懸念が持たれます。ジャーナルや出版社が影響を受けるだけでなく、最終的には著者自身と、その専門家としての評判に傷がつくことになります。業界では、「責任ある出版リソース連合」のさらなる発展を通じ、著者の意思決定を支援していきます。その一環として、ウォルターズ・クルワー社はエディテージと提携してウォルターズ・クルワー・オーサー・サービスを起ち上げています。

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