エディテージ・グラント運営チーム、代表からのメッセージ

研究コミュニティを通じて利益を社会に還元する

カクタス・コミュニケーションズが運営するエディテージは研究者の皆さんが論文投稿をする際に必要な英文校正、学術翻訳などのサービスを提供しているブランドです。大学や研究機関に席を置く日本の研究者の方のほとんどは、論文の英文校正や翻訳を科研費から支払います。つまり我々の会社の売り上げは間接的には国費、つまり税金から支払われているお金です。この業界でアカデミアに関連するビジネスをしている以上、私たちの売上の一部を何らかの形で社会に向けて還元するべきだと、長年その方法を考えてきました。

会社ですから、当然のことながら納税は一般的な社会還元の一つの方法ですが、それだけではなく、校正・翻訳業者ならではの視点、方法で還元したい。そこで考えたのが分野を問わない、若手研究者への研究助成金です。いまの研究業界の中にいると、国立大学の運営費交付金などの予算が削られていて、研究者の方も大学の方も、お金がなくて研究が満足に支えられないという話ばかり聞きます。実際にエディテージのお客様にお会いすると、多くの方が予算が厳しくて研究がままならないと悩まれている。

先日ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅先生もメディアで繰り返しおっしゃっていましたが、今は社会に役に立つかどうかわからない基礎研究に対しては特に国税から予算が出にくくなっているという状況があります。日本の研究活動を陰ながら支えている企業として、その穴埋めができるような研究費を寄付という形で出せないかと考えたのです。それが2016年に「エディテージ研究費」を開始した動機でした。

エディテージ研究費と民間研究助成金の違い

エディテージ研究費の大きな特徴は、科研費が獲得できなかった基礎研究者の方のためのいわば敗者復活のための研究費という位置づけにしていることです。これは多くの民間企業による研究助成金とは目的が異なります。民間企業による研究助成の場合、その多くが企業が関心のあるテーマや、将来応用・商品化が可能な研究への助成だと思います。特定分野の研究者への純粋な寄付もありますが、 出口ありきで広く基礎研究をカバーしていないものが多い。

我々の場合は実際この助成金を通じて仮に研究論文が1本増えたとしても直接的な利益につながるわけではありませんが、もっと広い意味で日本の基礎研究力が低下すれば業界全体が打撃を受ける、そのことを危惧しています。この研究費の立ち上げをきっかけに目指しているのは、我々のような一般企業が研究者の興味関心に基づいた基礎研究を包括的に支える助成金を立ち上げる社会的なムーブメントです。

日本の論文数がうなぎのぼりに増えていった時代は過去になりました。今は毎年日本人の受賞者が誕生するノーベル賞も、基礎研究をもっと国がおおらかに支えていた過去の時代のいわば遺産。これからの時代、ノーベル賞は中国の研究者が次々に受賞しはじめるでしょう。日本の研究力の低下は日本のアカデミアだけの問題ではなく、日本という国のブランド力を確実に下げてしまいます。日本がトップでありつづけるためには、基礎研究力も研究の国際化も不可欠です。

基礎研究にこだわるもう一つの理由は、応用研究は基礎とは比較にならない規模の企業から様々な資金的サポートを受けやすい環境にあることです。我々は学協会の展示会などにもよく出展させていただきますが、基礎研究では参画して来る企業も少なく、協賛金の規模も応用分野と比べて格段に小さい。国がイノベーションを重視して純粋な知の探求という研究者の本来的な活動の支援に消極的な流れがある中で、我々のような研究者を影で支えるニッチな業界がこの部分をサポートすることで日本の基礎研究を底上げしていく新しい流れを作ることが必要なんじゃないかと思っています。

対象は「科研費が2年以上続けて獲得できなかった40歳以下の基礎系研究者」

なぜ2年以上科研費が獲得できなかった方を対象とするかなのですが、研究費というのはあるところにはあるものですよね。だから既に研究費を持っている人にさらにお金をあげても意味がない。我々としては研究がやりたいのに研究費が運悪くもらえなくて困っていらっしゃる研究者の方をサポートしたい。2年間諦めずに申請を続けているということは、研究をやる気があるということになりますから。

科研費申請が通る率は27%ほどなので、科研費申請に落ちたからといって必ずしもその人の研究プロポーザルが悪いとか実力がないわけではなく、申請した年や分野重点、競合する研究者がたまたま多いなどの確率的な運みたいな部分もあります。そういう人たちの研究費がゼロにならないために、ライフラインの役割を果たしたい。しかもできれば自分の申請は落ちてしまったけれど研究室は潤っているから大丈夫という人よりも、これがあればやりたかったことを諦めずにすむという状況にいる方に積極的に提供したいと考えています。

また、40歳以下の若手を対象としたのにも理由があります。今の研究評価制度はどちらかというと過去の成果に基づくもので、もちろん若手向けの科研費もあるものの、まだ十分な成果が出てないがポテンシャルがある人に焦点を当てる研究費がもっとあってもいい。普通の企業では40歳というとベテランの域ですが、研究者の場合は大学院を出てポスドクを経験し、これからテニュアを取ろうとしている研究者の多くは30歳や35歳以上だと思います。その年代の人たちに、将来のために一つでも多くの研究成果を出すチャンスを提供したいという狙いがあります。

50万円の研究費というのは額としては決して多くありませんが、例えば国際学会に参加するための渡航費や研究成果を論文という形にしてジャーナルに投稿・出版する費用としても使えるかもしれません。私たちは研究成果の国際発信をサポートするサービスを提供する企業ですから、日本人の若手研究者がせっかく行った研究成果をもっとどんどん海外に発信していただきたいという思いもあります。そうやって日本の若手研究者の国際プレゼンスをあげることに結びつく活動をしていただきたい。エディテージ研究費を受けていただいた方には、ぜひ我々にご相談いただければ、そういった海外活動の費用を別途サポートさせていただくことも可能です。

テーマではなく、人としての研究者にフォーカスしたい

「エディテージ研究費」では、研究テーマやプロポーザルの具体的な内容がどうであるかはあえて審査基準に入れていません。研究テーマの意義やそれが将来的に研究としてどう大きく化けるかといったポテンシャルは実際に研究を行ってみなければわからないですし、計画した通りにならないのが研究だと思います。それよりは我々は申請してきた方の人物、モチーベーション、ヴィジョンに関心があります。なぜその研究をしたいのか、その研究を通じて何を達成し、研究者としてどうなっていきたいのか。選考のプロセスでは申請動機を中心にお話を伺い、選考メンバーがこの人に研究費を寄付すれば必ず資金を生かして研究を達成して積極的に国際発信をしてくれるという方を選抜したいと思います。

目指す未来

会社の成長とともに、社会貢献活動の規模も拡大して行く必要があります。開始年の2016年には、2名の方に50万円の研究費、3名の方に英文校正助成5万円分の、合計115万円を助成させていただきましたが、民間研究費の規模としては少額であり、受給できる人数に限りがありました。2017年は研究費の規模と種類を一部拡大して、利用者の方に本当に必要なサポートを随時更新していきたいと考えています。

カクタス・コミュニケーションズ株式会社
代表取締役 湯浅・誠